連作『私は人より何かが要る』
_1話 ある夏の日に_
どうだい、不幸の蜜の味は
そうか美味いか、そりゃあよかったなと
地面に向かって毒を吐いた
公園のベンチの下でこぼれたアイスクリーム
私が働いた分のお金と引き換えになったものだ
特に落ち込みはしなかった
ひとつため息をついて、
何事も無かったフリをして読書を始めた
フリは現実になるもので、そのうち何事も無くなった
少し前の悲劇など疾うに忘れた頃、
心地よい読後感で本を閉じると、
そこにアイスクリームと、
それに群がる蟻の群れがあったのだった
アイスクリームをこぼした人間のように、
自ら得た幸せを他人に掬われる奴がいる
こぼれたアイスクリームを喰らう蟻のように、
人の不幸せを享受して幸せになる奴がいる
夏に繁盛するアイスクリーム屋のように、
幸せを他人に与えることで幸せを得られる奴もいる
他者を幸せにすることで、自分も幸せになること
それが夢であり、私の素敵な大人像だった
あぁそういえば、
私の不幸が他人を幸せにすることが前にもあったなと
学生の頃を想起する
嫌な記憶を思い出してしまった
2025.8.11
#こぼれたアイスクリーム
8/11/2025, 10:58:48 AM