遠く遠く、さらに遠く
彼女は時空の彼方に砕け散った
深い深い時空に
ばらばらになって
名前も覚えていないし
見た目も覚えていない
ボブか、ショートか、ロングか
白い服だったような
脚は、細かった
今、彼女はどこにいるのだろう
僕の胃の中かもしれない。僕の横にいる?
それとももう居なくなってしまった?
もう誰も彼女を思い出さない
彼女の死は、僕が彼女を忘れたとき。
枯れ葉より脆い、彼女
私の記憶の片隅で、濃霧の湖に佇む彼女
彼女は誰だった?
無機質な声と重低音が脳を霧のように塞ぎ込む
これは彼女?
一緒に過ごした夕暮れのとき
オレンジが光るビルの群れ
車の風を切る音
コンクリートの擦れる音
彼と聞くと耳に残らず
のに、今はやかましいくらい耳に残れば
いまも彼の声は聞こえない
そこの湖のボートごとひっくり返って
落ちてしまえばいいのに
あけぼの 薄みがかる霧の空に
レースのカーテン たなびく風
冷風顔にあたり
浴びる光は朝日だけ
沈黙
情報が溢れる現代で
ヒトという貴方への
朝からの
沈黙 静寂の贈り物
オランダの風車が回りだして
スイスの鶏が鳴く頃
私が服を着る頃に
君はベットの中
白砂の砂時計は残り僅か
君の白いパールのオペラチェーンで
私の脚を締め上げて
砂時計にも灰皿にもなんにも残らないで
ガラスに夜明けが反射する
私の切実な願い
君の芸術に花が開くのは遠い未来
けれど、どうか好きに生きてほしい
それだけで、私の考えもつかない
大きな華を開花させて、人を魅了できるだろう
私についてこなかった君よ
手を差し伸べたのについてこない君は
これから、私の用意した道と外れて
長い、獣道が続くだろう
何処へ進んだら良いのか分からない
そんな景色が広がる
けれど、止まっていては何にも出会えないのだよ
足元の青い小さな花に満足していては
いつかその花が枯れた時に
何を信じていいか分からなくなるだろう
旅を続けて
様々な御人と出逢い、己を育み
自分自身が華となれ
私はそんな君とまた出会えることを夢見て
地平線の先に出る
また一周して出逢おう
このホールループに
この星で