「団長っていっつもその格好だよね。」
オレは隣で歩いている白い燕尾服の男に言う。
「そうですね。これ以外に服ないんですよ。」
ニコッとこちらを見る。年齢に見合わない幼い笑顔は今日も健在だ。
「え?まじ??」
「はい。」
…これは本当なのか?それともちゃんと嘘か?この人は本気も冗談も同じ口調で言うのでわかりずらい。
「なんで?買わないの?お金ないの?俺たちの上司のくせに????」
「お金ならありますよ。ただ必要がないだけです。この服がいちばんしっくりくるんですよ。ほら、あなたも制服ばかり着ていると私服選びが億劫になるでしょ?」
「確かに…」
これはガチのやつらしい。
「団長」と呼んでいる彼はオレが所属するヒーロー事務所の「キーパー」。簡単に言うと上司だ。彼は団長という呼び名らしく、初めて会った時からサーカスの団長みたいな服を着ている。
今日は団長に誘われて買い物に付き合っている。と言ってもお店に入って見るだけで何も買いやしない。手ぶらで店を出る時の申し訳なさや怪しさ満点さを感じているのはオレだけのようだ。
「歩き続けると疲れるものですね。そうだ。いつものカフェに行きましょう。」
気分が乗ったのか軽くスキップをしてオレの前を歩く。オレに拒否権ないようだ。
「気まぐれだなーうちの団長は。結局なんも買ってないし。」
つい愚痴っぽく言ってしまう。まあ鈍感な人なので良いだろう。
なんて思っていると前の長髪男はスキップをやめて振り返る。嫌に綺麗な碧眼と目が合う。
「買い物はあなたを誘うための言い訳です。今日の本命はネタ探しですよ。おかげでまた色んなとこを知れました。ありがとうございますね。」
団長はニコニコというオノマトペが似合う顔をする。何も買っていないのにやけに満足げなのはそういうことか。ついでにオレを誘えば色々説明してくれるだろうとか思ったのだろう。
ネタ探しというのは彼の劇団の台本のとこだろう。団長は劇団の長でもあり、オレ達ヒーローのキーパーでもある。本人曰く、劇団が本業でキーパーは副業らしい。逆にする気はないようだ。
「団長って外国人だっけ?外国にも服屋とか花屋とかあるでしょ。」
「はい。ありますが、私の故郷にあった店とは全く違います。この国は本当に豊かですね。」
心からそう思っているのだろう。しみじみとした顔をしている。
「団長がこっち来たのって何年前?日本語普通にうまいよね。カタコト微塵もないし。」
「2年前の冬でした。こっちに来る前から言語だけは勉強させられていたので喋れますね。ちなみに副団長とダイスケもですよ。」
再び2人で並んで歩く。
足は無意識にカフェの方へと進んでいる。
「オレ副団長に未だにあったことないんだけど。」
「彼は多忙ですからね。台本作りに会計処理、ヒーロー事務所の運営などなど。やることがいっぱいです。彼、仕事人間なんですよ。」
呆れて苦笑しているがヒーロー事務所の運営はあなたの仕事では??と心でツッコんで言わない。
まぁ、上司がこれだ。副団長は仕事人間にならざるを得なかったのだろう。会ったことがなければ顔も知らない副団長の苦労がこちら伝わってくる。
「ダイスケさんもヒーローのくせにぶっきらぼうだよね。知ってる?事務所で最初に帰るのはダイスケさんなんだよ?」
「彼は昔からそうですから。安心してください根はちゃんとヒーローです。私が保証しましょう。」
その保証、信用できないな。昔からそうだと言われてもな。
ん?てか待てよ?
「ダイスケさん外国人??」
「はい。先ほどもそう言いましたが。」
「ダイスケって名前のくせに??」
「……」
団長の歩調が早くなる。こいつ、何か隠してる。
「そうだ!彼、こっちに来た時に名前を変えたんですよ。」
「帰化したってこと?名前変えるのめんどくさい手続きだって正華が言ってたけど。」
早歩きが駆け足に変わる。
「あー!間違えました。向こうにいた時からダイスケでしたよ。親が日本に憧れがあったとかでその名前にしたんだとか。ところでなんですか帰化って。」
こいつまじか。
「てか、団長たちの故郷ってどこの国?顔立ちからしてヨーロッパらへん?」
オレは無視をして質問を投げる。団長は秘密が多くオレたちもよく知らないことが多い。だが、そのせいで定期的にボロが出てこういうことになる。そんな時は構わず質問攻めにするのが効果的だ。
「私の質問に答えてください!帰化とはなんですか!!ちなみに私の故郷はフランスとかです!!」
質問に答えてくれるのか。律儀なところは評価しよう。というか「とかです」とか言わなければ信じたのに。
もしかしなくてもオレより馬鹿か?
駆け足はスピードを増し、追いかけっこが始まった。
現役ヒーローに勝てると思ってるのかこの男。
オレはすぐに追いついて襟を掴む。なんか高そうなのでシワがつかないように謎に気をつけた。
「はぁ、はぁ、」
「んで?本当は?ダイスケさんの名前の謎は?団長たちの故郷の国は??」
容赦なく追い詰める。日頃の恨みだ。子供と言われても構わない。オレはまだ高校生だ。
「個人情報ですよ!!ハヤト君!!」
「団長のとこは聞いたけどダイスケさんのことを言い始めたのはお前だ。オレはそれで疑問を持って聞いているだけ。」
うっ…と決まりが悪そうな顔を浮かべる。
この人余裕がないと表情管理がなってないな。
「はぁ、、出したくなかったですか背に腹はかえられません。ハヤト君!!これを見なさい!!」
団長は内ポケットから何か出したかと思うとそれをオレに見せつけてきた。
「……!!?!」
オレは驚きのあまり声を出すのを忘れた。無理もない。なぜなら団長が出してきたのが、
某有名ヒーローの招待チケットだったのだから。
オレは小さい頃からヒーローが大好きだ。大好きじゃこの熱は伝わらないかも知れない。そうだな、オレの体はヒーロー愛で出来ていると自信をもって言えるほどにはヒーローが好きだ。愛している。憧れている。熱が増しすぎてオレもそれになってしまったほどだからな。
そんなメイドインヒーローのオレが昔から好きな特撮ヒーローの周年記念イベントを知らないわけがない。応募はもちろんした。倍率が高すぎるのでお願いして親のアカウントでも応募をした。だが抽選というのは残酷だ。オレがチケットを手に取る瞬間は来なかった。
それなのに。なんで。此奴がもっている。オレより古参のファンだったのか??それはそれで腹が立つ。
「知り合いの伝手でもらったんですよ。今日のお礼にあなたに渡そうと思ってたんですが。気が変わりそうです。」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
こいつ。大人気ない。大人気なさすぎる。
だか侮られては困る。オレはペーペーでも、端くれでもヒーローだ。悪手に屈することなどあってはいけない。そう。たとえ目の前にあるのがヒーローショーのチケットだとしても。
たとえ、あの全人生の運を賭けても欲しいと思ったチケットでも。
たとえ、オレの青春の集大成でも。
「………。」
「欲しいですか?ハヤト君?」
「………」
そういえば、高校生は大人になるための大事な時期だと担任が言っていた。つまりオレはまだ子供で、目の前の卑しいやつは大人気ない人間。つまり子供。ここから分かるのは、大人になった方の勝ちということだ。
まぁしょうがない。ここは大人になるのがオレの成長のためだ。
「さっきのことは無かったことにしますよ。団長。」
オレは爽やかな笑顔を見せる。大丈夫だ。団長の秘密なんてこれからいくらでも聞ける。
「流石ハヤト君。大人ですね。大人な君には今日のお礼にこれをどうぞ。」
そういうと、団長はオレの手に紙切れを乗せた。手にした瞬間、目を閉じたくなるほどの光がチケットから溢れ出した気がした。なんてことない印刷紙。だけどオレにとって紙幣よりも重く、価値のあるもの。きっと、オレのこれからの生き甲斐となる宝物。口角が上がるのをやめられない。
なるほど、悪者はこうやって増えていくのか。オレは今、違う意味で大人になってしまったのかもしれない。ごめんなさい。先生。
顔を上げると目の前の男は相変わらずニヤニヤしていた。これもこの男の計画のうちだったのだろうか。
…いや、考えるのはやめておこう。
「カフェも奢ってくださいね。」
オレはやられっぱなしで終わらない。言っただろう。ペーペーでも、端くれでもヒーローだ。
「はぁ、しょうがないですねぇ。」
なんてやりとりをして、再び歩を進めるとすぐカフェに着いた。
今日は何を頼もう。何を頼んでもきっといつもより美味しく感じるはずだ。
「 」
教科書にのっていたステップをふんで
履かされたのは自由の靴
あれ? こんなだっけ? おかしいな?
だけど止まらずに
手本と自分見比べて目指すは
再現度100%?
自由の監獄に詰められちゃったら
翼も足も動かせないから
だからいっそさ
檻からはみ出そう
履きなれたボロボロの靴で
でたらめなステップで進もう
どうせこの道歩くのは君なんだからさ
檻から出て待ち受けるのは
本気を笑う世界で
一挙一動を指さしてくる
つい足が絡まった
模範生たちは言った「ほらね」
嘲笑と裏腹の落胆と目があった気がした
口に入った砂を飲み込み
足に絆創膏貼って立ち上がって
そうさ
ハイヒールなんて脱ごう
小指が見えるすれすれ靴で
でたらめなステップで踊ろう
どうせこの道歩くのはきみなんだからさ
君に言ってやる
歩幅歩いて手に入れたコピー能力
それも意外と役に立ったんだって
だけどそれだけじゃ足りないって目に物言わせてやる
その目に光を
時間に置いてかれないように
走らなきゃいけないからさ
過去なんて見ないでいい
足と心にひたひたに染み込んだから
だからもっと
不自由を楽しもう
魚もタコも吹き出しちゃうくらいの
でたらめと受け売りのステップで
これが自由だって見せつけてあげる
「進路希望調査 あなたの将来の夢そのための進路について書いてください。」
プリントの記入欄は凸凹になってしまった。
「あなたが行きたいところに行けばいいのよ。」
「お前ならどこにだって行ける。先生は応援するぞ。」
親も先生もそんなこと言うけど、きっとあの人たちは医者になりたいとか弁護士になりたいとか言う私しか頭にないのだろう。無理もない。私は勉強ができて頼りがいのある優等生になってしまったのだから。ただ怒られないで心配もされない、傷つかない選択肢ばかり選んでいたら真面目な学生Aになってしまった。そんな学生Aには夢がない。いや、夢を隠している。だってそれは学生Aには似合わない夢なのだから。
いつの間にか日は落ちて外は暗くなっていた。
学生Aは深いため息を着くとスマホをもってベッドに倒れた。慣れた手つきでアプリを開く。それは今人気の冒険ゲー厶だった。どうやら学生Aは現実逃避をするために始めたこのゲームにハマってしまったらしい。1人で笑ったかと思ったら泣き出し傍から見たらおかしい限りだ。学生Aはスマホ画面をじっと見つめて言った。
「シナリオライターってやっぱりすごいな」
そう、勉強ができて頼りがいのある真面目な学生Aは似合わない夢を持ってしまったのだ。現実逃避のために始めたゲームにハマった挙句、似合わない夢を持ってしまうなんて皮肉な話だ。それもうんと現実からかけ離れた夢に。学生Aは賢いから知っている。賢いからこそ知っている。これは自分が言ってはいけない夢だと。自分は現実的だけど夢のある夢を持たなければならないということを。そんなことを考え続けているせいでプリントも心も埋まらない状況になっているところだ。
「弁護士、youtuber、医者、漫画家、教師、シナリオライター…」
そう唱えると笑ってしまった。夢のある夢ほど現実を考えなければいけないんだ。そう考えたら現実逃避なんて困難じゃん。実際夢持った日から現実を見すぎている。
大人は現実を見ろと言ったかと思ったら次の日には希望を語って夢を持つことを強要する。どっちつかずで子供は分からなくなる。そんな大人たちに夢を言ったら言ったで違うって言うに決まっている。
「ご飯できたよー」
下から母の声が聞こえる。
「はーーーい」
いつものような返事だっただろうか。そんなことを考えながら階段を降りる。
夢なんて不確定に決まっているのにそこに確実を、安定を求める。夢を語る時に現実なんて見たらいけないのに現実はそういう時にこそ出しゃばってくる。私が夢を持つ日は来るのだろうか。
この世を生きる人間みんなオタクなんです。
大事なことなので沢山言います。
この世を生きる人間みんなオタクなんです。
「え待ってそれ新ビジュのグッズじゃん!」
「そうなの!昨日買ったの!」
「いいなぁー!そうだ!これ頼まれてた絵!」
「待ってました!これほんとにお気に入りのビジュなんだー!ありがとうまじ尊い!」
これは私と友達の何の変哲もない会話。
だけどクラスの人間はニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「やば笑笑」
「無理死ぬ笑笑」
あの人たちには私たちがオタクに見えているのだろう。もちろんそうだ。否定はしない。私は自他ともに認めるオタク。だけど別に恥ずかしくともなんともない。だって好きな物を好きだって言うことの何がおかしいの?もちろんTPOとかは弁えてるし、なんならあちらの方が普段周りに迷惑をかけているのでは?だからと言って別になにかアクションを起こすつもりはない。
だってあの人たちもオタクですもの。
人間生きてれば感情は自然と形成されるもの。その感情は種々雑多で自分だけにしかないものとか他の人と共有できるものまで色々。だからそこに「好き」という感情があるのは不自然ではない。そしてその「好き」こそがオタクの種だと私は思う。換言すると「好き=オタク」なのだ。
人間大なり小なり好きなものがある。私たちを笑っていたあの人たちもメイクとかファッションとかに敏感じゃん。毎日のように新しいコスメ買って見せあってるじゃん。それはもうオタクと言わずなんと言えばいいのですか?
スマホの画面の俳優を見せあってキャーキャーいうあの子たちも
授業が終わったのにも関わらず永遠とよく分からない横文字の法則について熱弁する化学の先生も
ホームルームが終わって光の速さで着替えて部活に向かうあの子も
分厚い本とばっかり顔を見合せているあの子も
いつも同じ時間に同じ道でランニングしているあの人も
みんなみんなオタクなんです。
みんな何がが好きで何かに熱中して生きているんです。だから生きられているんです。嫌なことがあっても次の日にはケロッとしてられるんです。
先程私たちのことを笑っていたあの人たちですがきっと自分たちがオタクだって認めたくないんでしょう。「オタク」っていう言葉に否定的なイメージしか抱いてないばかりにプライドが邪魔して認めることが出来なくなったんでしょう。まぁ、何も認めることが正解って訳でもないですよね。まず「好き=オタク」っていうのも持論でしかない訳ですから。
だけど、人の好きを価値観を嘲笑するのはまた話が違ってきます。なんにもわかってないならもっとです。無意識に自分を上げるために他人を下げているんだと思います。その原因はやっぱりプライドかなって。自分を大切にする、誇りに思うのは素晴らしいことです。だけどそれは時に足枷になってしまいます。自分も他人も傷つけてしまいます。
話が脱線してしまった感じですが私が言いたいことは
この世を生きる人間みんなオタクなんです。
みんな「好き」を持っているんです。
もしいない人がいるのなら私の元に来てください。
この世のありとあらゆるものを布教してあげます。
人間「好き」があれば生きる上でのちょっとしたエンジンになると思います。
みんなが「好き」を極めればきっと不景気なこの世の中もちょっとだけ明るくなるはずです。
あと、あなたの「好き」が馬鹿にされることがあるかもしれない。だけど簡単に折れないで。そいつらの前では強気でいて、誰もいない時に悲しんで、「好き」に励まされてまた明るく生きて下さい。
耳タコかもしれませんが最後に
この世を生きる人間みんなオタクなんです。
誰よりも考え続けたい
考え続けていれば きっと私は居なくならないから
誰よりも考え続けていたい
過去の私を裏切りたくないから