『さぁ冒険だ』
何も書き込まれてない真っ白な地図に新しい靴と鞄。
涙ぐむ母さんと、力強く頷く父さんに別れを告げ一歩踏み出す。
次に会う時はしっかり書き込まれた地図を見せる時。
世界はどこまでも続く草原に、薄暗い森。
時折暗闇広がる洞窟もある。
世界は広い。
時に困難にぶち当たるかもしれない。
けれどこの目で全てを見てみたいから。
さぁ冒険だ!
『一輪の花』
色褪せた物に、同じような仮面をつけた人間達。
目は垂れさせ、異様に釣り上げた口を見せながら紡ぐ言葉は全て薄っぺらい。
―――いやぁ…本当に素晴らしい!《もっと近づいて有名に…》―――
――なんて素敵なのかしら!ご一緒にお茶をしていただきたいわ《この人と結婚したら、玉の輿!玉の輿っ…!》――
見え透いた世辞に、耳障りな甘ったるい声が余計俺の世界を灰色に染めていく。
何故皆こう笑うのかわからない。
俺には当たり前の事すら皆にはわからない。
物事全て一度聞けば簡単に学べるのに、感情に関しては何度言われたってわからない欠陥だらけ。
「なんとなくでもいい。お前にだって綺麗だなって思う花があるでしょう?まずはそこから見つけて、なんで自分はそれを選んだのか考えてみればいいんじゃない?」
自分には感情が無い。なんて、零した言葉に彼女平然と生け途中の花を指さす。
不意に見せた彼女の何気ない微笑みに視線が彼女から離せなくなる。
俺、最近こういう事が多い。
いつも真剣に生ける彼女の姿と、彼女が生ける花をみるとよくわからない感情がざわついて、説明出来ないモヤモヤが広がってどうしたら良いかわからない。
「そんな事からわかる?なら…。」
彼女が綺麗に切った色とりどりの花。
その中から星の形をしたの気高く凛とした紫の花を一輪手に取る。
桔梗。
今は分からなくとも、彼女と同じ名前の花は自分の何かを変えてくれる。
そんな気がする。
『魔法』
転んで泣く私に母は微笑みながら
「痛かったね〜。でも、あなたは強い子。ほら痛いの痛いの飛んでけ〜。ほら、痛くなくなったでしょ?可愛い笑顔みせて?もう笑顔で立てるかな?」
いつもそう言ってくれた。
あんなに痛かったのに母に言われるだけで強くなれたし、痛くも無くなった。
魔法使いみたいな母。
大人になって母となった今、私は君の魔法使いになれるかな?
『あなたは誰』
ねぇ、こんな話を聞いたことない?
西棟2階、階段の踊り場にある鏡の前を黄昏時に通ってはいけないんだって。
黄昏時のオレンジ色が鏡のあちらとこちらをわからなくして、出会ってはいけない者に見つかってしまうから。
それでも、どうしても鏡の前を通らなきゃならない時は決して鏡に背中を向けないように。
さもないと……
アナタハダアれ?
興味を持ったあのコに引きずり込まれてしまうんだから――
『手紙の行方』
手紙を書いてみた。
今時手紙だなんて…。とか思うかもしれないが書いてみると思いのほか楽しい。
今日はこんな事があったぞとか、こんな物が好きだなんて書いてみると不思議と読んでくれた相手もどんな事が好きなんだろかなんて想像するから。
さて。書けた所で"宛名の無い手紙専用ポスト"へ持っていこう。
この俺の手紙を読んでくれるのは、一体どんな人物なんだろうな。
知らない人へランダムで届く文通サービス。
どんな人物へ届くか本人にも分からない。
俺にも手紙の行方がわからないからこそ手紙の行方に思い馳せる。