『木枯らし』
これは少し前の秋の事。
赤や黄色で染まる神社を一人で散歩していた時のお話です。
一面真っ赤に染まった境内はその色と、神社というか独特な神聖な空気にまるで異世界にでも行ったかのような不思議な雰囲気がありました。
あまり人に知られていない神社ということもあり、境内を歩く人は私一人。
この不思議な場所に一人きりな何ととも言えない優越感に浸りながら、いつも通りのお参りをしようとした時でした。
強い風が吹いたのです。
木枯らしが吹くなんて天気予報で言っていた位元々わりと風が強い日でしたがその風は、境内の紅葉を舞い上げてとても幻想的で思わず立ち止まって見入ってしまいました。
『もう、冬になりますね。』
ふと気づくと今まで誰もいなかった境内に一人の男性がた立って、舞い上がる紅葉を私と同じように見ていました。
向こうも今私に気づいたかのように顔を向けると何処か寂しそうに、私に微笑みを浮かべてきたんです
その男性は、酷く儚くてまるで今すぐにでも消えてしまいそうなくらい美しい人で、そんな人と初めて話す私は少しだけどぎまぎとしてしまいました。
「ほ、本当ですね。どんどん寒くなっていきます。
で、でも私は冬も好きなんですよ。雪かきは苦手ですけど、雪は綺麗ですし何より全てがお休みする大事な時期だと思うんです!
休んだあとまた春になるとお花も咲きますし、それもまた楽しみで…!」
だからか凄くどうでもいいような聞かれてない事まで答えてしまって、それが恥ずかしくなって更に慌てると男性は驚いた表情をしながら優しく笑っていました
『…冬も無駄にならないということですか?
…あなたみたいな方がいて嬉しいです』
その姿がやはりとても綺麗で見入っていると、また境内に強い風が吹きあまりの風の強さに思わず目を閉じると、次にはもうその男性はいませんでした。
私は何か幻でも見ていたのかまるで狐につままれた気分になりながら、目的のお参りを済ませてしまおうと慌てて足を進めようとした時
『ありがとう』
もう一度紅葉が舞い上がり先程の男性の声でそんなふうに聞こえた気がしました
木枯らしが吹くある秋の日の不思議な体験です。
あの男性は一体誰だったのでしょうか。
この世界は理不尽だ。
なんの努力をしなくたって運だけで登っていく奴も居る。
逆にどんなに努力をしたって常に底辺に居る奴も居る。
この世界は嘘だらけだ。
少なからず嘘をついたこと無いなんて人はいないだろう。
良くも悪くも嘘が混じる
それでもこの世界に生きるのは、貴方がいていいよって言う数人がいるから。
頑張ったら頑張っただけ認めてくれる人がいるから。
この世界は嘘だらけで理不尽だが、愛があって優しい
『どうして』
Tさんへ
ずっと手紙を書きたかったんですが、貴方がいた頃僕の頭に手紙を書くなんて考えがなくてかけませんでした。
あの時もし少しでも手紙がかけれたら貴方は僕の側に居て、僕が作ったクッキーを一緒に食べてくれてたんでしょうか?
皆んなはもういなくなった人なんだから忘れたらいいよなんて言いますが、初めて僕を可愛いと、好きだと言ってくれたら貴方が僕は本当に忘れられません。
あの日からなんか僕は少し壊れてしまったきがします
それまでは穏やかに皆と話が出来ていたのに、今では貴方みたいにいつか消えてしまうのでは、僕の何かが合わないと言われるのではと不安がずっと胸にあります。
ただ、貴方に貰った物もおおいんです。
優しい言葉、暖かい気持ち、穏やかな場所。
全部いい思い出になりつつあって一時期でも貴方と話せた事がこんなにも幸せだったんだなって女々しくも泣きそうになってます。
もっと貴方に好きですって言っておけば良かった。
ありがとうって感謝を伝えて置けば良かった
後悔ばかりが浮かんで、ずっとどうして?どうして?と叫びたくなりますが、消えた理由は貴方にしかわからない。
飽きた。と聞くよりはまだ何も言わず居なくなってくれた方が良かったのでしょう。
今後貴方以上の人が見つかるかわかりません
けれど前に頑張ってもう少しだけ進んでみようと思います。
幸せになってればいいな。
sより
「この箱に入れば一生眠り続け外には出れません」
胡散臭い魔術師は自分よりも大きな箱を叩くと怪しく微笑んだ。
真っ白な箱は下の方が少しだけ黒く染みていて、開いて見ると一人寝るのには十分なスペースがある
「その代わり、お腹も減らない無駄な時間を過ごす必要もない。
貴方だけの幸せが一生続きます
…夢という世界で。」
現実になんの未練があるだろうか。
必死に働けば自分よりも要領の良いやつの手柄になり。
好きな事をやっているだけなのにお前には向いてないと否定され。
こんな場所に生きてたってただ苦しいだけ。
なら箱に入って幸せな夢を見てるほうがよっぽどいいだろう
「中に入ることをお選びですか。
それはそれは…これで私ももうしばらく、世紀の大魔術を成功させられそうです。」
中に入ると選択すれば未だ怪しい魔術師はより一層胡散臭い笑みを強め、恭しくお辞儀をする
それを横目に箱に箱にはいる。
狭いが直に気になることもないだろう
温いお湯に浸かるような感覚を覚えながら徐々に閉まる扉を眺めるが恐怖はない
なんてたって今から見れるのは幸せな夢だ
幸せであるならずっと夢を見ていたいのだから…。
ずっとこのまま一つになって溶けてしまいたい
なんて言っていた人がいたけれど、本当にずっと一緒になんていられるのかしら?
恋に恋をしていたら溶ける前に怖気つくわ。
お互いがお互いを本当に求めていなければ無理ね。
なんて思っていたけれど、なんとなくわかるの。
ちゃんと来てくれるあの人に私もずっとこのままお友達でいたいわなんて思ってしまうから。
恋じゃなくていいわ。
飽きたら終わってしまうから。
好奇心旺盛なあの人は恋ではなくてもいつか消えてしまいそうで怖いわ。
だからあちらこちら興味がありそうな物を探しておくの。
そうすれば興味をいつでも持っていてくれるでしょう?
本当はいかないでなんて言えたらいいけれど、それも逆効果。
ずっとこのままの関係でいたいなら楽しくお話ができるようにしておかないと。
だけどね?ちゃんとあの人は私に会いにきてくれるのよ。
少しは私の何かが好きでいてくれてるのかしら?