風鈴に映る逆さの夏
石畳の細く長い坂道を
夜祭の空気が下っていく
澄んだ瞳に映り込んだ
舞い踊る光のカケラは
僕らの空気を照らし出す
夜の鳥居と祭り屋台
浴衣姿の横顔に
澄んだ瞳の井戸の底
夢現つの花が咲く
大きく美しい火の花が
ふたりを仄かに赤らめる
一段大きな
火の花が咲いた
一段美しい瞳の底に
(澄んだ瞳)
扇風機が首を振る
初夏の六畳間。
五月雨が雨樋を伝って
庭の置き石を叩いている。
湿った六月の空気は
埃を被った
思い出の匂いがした。
あの夏の日を思い出す。
そうして
過ぎ去る時の味を
噛み締めながら
扇風機の唸り声を聞いていると
不意に玄関先から
クチナシの匂いが漂ってきた。
雨はもうすぐ上がるようだ。
(日常)
街は眠る。
深夜。
重力に身体がベッドへ沈む。
遠く
貨物列車が
線路の継ぎ目を踏みしめながら
走る音がする。
心地よくぬるい
六月の夜風。
月あかりに
カーテンが揺らめく。
街は眠る。
冴えた眼を置き去りにして。
街は眠る。
(街)
今度の終末はどこへ出掛けようか
銀座で私、買い物がしたいわ
何か欲しいものでもあるのか?
最後だもの、贅沢がしたいの
そうか、じゃあ色々買ってってやろう
それから昼は表参道で
お洒落なお店とか入ろうか
あら、いいわね私あの時行けずじまいの
パスタのお店に行きたいわ
午後になったらどこへ行きたい?
貴方は行きたいところとか無いの?
そうだな...特段あるわけじゃ無いが
お袋と親父の墓参りに行きたい
貴方のそういう所、私好きよ
悪いな、終末だっていうのに
私は親をおいてきたから
貴方が少し羨ましいわ
お前も挨拶しておくか?
ええ、勿論お世話になったもの
最後はどこに行きたいの?
お参りが終わったら最期はちゃんと
お前の前に戻ってくるさ
安心したわ、私たちようやく
また一緒になれるのね
全く若いままの彼女に会えるなんて
こんな幸せな終末は無いな
幸せなのは私もよ
こっちでまた二人で暮らしましょう?
(世界の終わりに君と)
ひとっとびした
駅に向かう人の群れを
ふたっとびした
朝の満員電車を
誰にも気づかれないままで
誰とも話さないままで
人ごみの新大阪駅
待合室のひとびとを眺めている
ひとっとびした
改札に向かう人びとの群れを
ふたっとびした
新幹線の高架の上を
軽くなった身体で
電線の上を歩く
淡い空の下
幽霊になったぼくは
(理想)