夜半

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7/30/2022, 4:06:54 PM

風鈴に映る逆さの夏
石畳の細く長い坂道を
夜祭の空気が下っていく

澄んだ瞳に映り込んだ
舞い踊る光のカケラは
僕らの空気を照らし出す
夜の鳥居と祭り屋台
浴衣姿の横顔に

澄んだ瞳の井戸の底
夢現つの花が咲く
大きく美しい火の花が
ふたりを仄かに赤らめる

一段大きな
火の花が咲いた

一段美しい瞳の底に
                   (澄んだ瞳)

6/22/2022, 2:50:51 PM

扇風機が首を振る
初夏の六畳間。

五月雨が雨樋を伝って
庭の置き石を叩いている。

湿った六月の空気は
埃を被った
思い出の匂いがした。

あの夏の日を思い出す。


そうして
過ぎ去る時の味を
噛み締めながら
扇風機の唸り声を聞いていると
不意に玄関先から
クチナシの匂いが漂ってきた。

雨はもうすぐ上がるようだ。

                       (日常)

6/12/2022, 2:48:44 PM

街は眠る。
深夜。
重力に身体がベッドへ沈む。
遠く
貨物列車が
線路の継ぎ目を踏みしめながら
走る音がする。
心地よくぬるい
六月の夜風。
月あかりに
カーテンが揺らめく。
街は眠る。
冴えた眼を置き去りにして。
街は眠る。
                        (街)

6/7/2022, 12:55:33 PM

今度の終末はどこへ出掛けようか

銀座で私、買い物がしたいわ

何か欲しいものでもあるのか?

最後だもの、贅沢がしたいの

そうか、じゃあ色々買ってってやろう
それから昼は表参道で
お洒落なお店とか入ろうか

あら、いいわね私あの時行けずじまいの
パスタのお店に行きたいわ

午後になったらどこへ行きたい?

貴方は行きたいところとか無いの?

そうだな...特段あるわけじゃ無いが
お袋と親父の墓参りに行きたい

貴方のそういう所、私好きよ

悪いな、終末だっていうのに

私は親をおいてきたから
貴方が少し羨ましいわ

お前も挨拶しておくか?

ええ、勿論お世話になったもの
最後はどこに行きたいの?

お参りが終わったら最期はちゃんと
お前の前に戻ってくるさ

安心したわ、私たちようやく
また一緒になれるのね

全く若いままの彼女に会えるなんて
こんな幸せな終末は無いな

幸せなのは私もよ
こっちでまた二人で暮らしましょう?

                (世界の終わりに君と)

6/6/2022, 3:47:02 PM

ひとっとびした
駅に向かう人の群れを
ふたっとびした
朝の満員電車を

誰にも気づかれないままで
誰とも話さないままで
人ごみの新大阪駅
待合室のひとびとを眺めている

ひとっとびした
改札に向かう人びとの群れを
ふたっとびした
新幹線の高架の上を

軽くなった身体で
電線の上を歩く
淡い空の下
幽霊になったぼくは
                    (理想)

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