「あんた、起きて!!」
母の大きい声が耳を刺激する。
耳障りな音としてしか認識せず、鬱陶しい。
今は社会人となり、一人暮らし。
自立して生活出来ている自分に誇らしさを感じるが、ふと母の声を思い出す。
1人で生活しているからこそ、あの時は気にかけてもらっていたのだと実感する。
あのうるさい声が、あの煩わしい声が今となっては温もりに感じた。
「あ、宇宙人が逃げた!」
夏の日差しの中、一つの裏路地へ走る。
からかうように奥へ奥へ入る猫を追う私。
細い目に細い体、自由気ままに動く猫が幼い私にはどこか宇宙人を彷彿とさせた。宇宙人が大好きだった。
翌日、梅雨が明けているはずなのに大雨。
窓に水が打ち付ける音がよく響く。
野良猫の宇宙人は雨を凌げているのかと、傘を差し外に出た。
少し歩いた道路脇に生き物のようななにかが横たわっていた。宇宙人だ。まるで雑巾のように濡れ汚れていた。血は出ていないものの節々が折れ曲がっていた。
突然のお別れ。想像もしていなかった。
宇宙人が宇宙人じゃないみたい。気づかないところで消えた命。目から涙が落ちた。
灰色のヴェールを纏ったような空、その中に一つキラメキがあった。あれは、飛行機だろうか。いや宇宙人の乗り物に違いない。次はもっと幸せになってね。
出会ってくれてありがとう。
夏の雨の日は、今でも空を見上げ探してしまうんだ。
余裕が無いな。
親から今日満月だよ、とLINEが来た。
空を見上げたのはいつだろう。
星が出ていない空は疲れ果てて空っぽの自分を包み込んでくれるように思える。
みんなはやりたいことを、好きなことをやれているのだろうか。楽しい毎日を過ごせているのだろうか。
心地いい風と共に昔の友に思いを馳せる。
きっとみんなも一生懸命生きてるに違いない。
そう感じ自分も頑張ろうと思った。
夜空には満月が輝いている。