道を歩いている時にふと懐かしく思うことがあるのは、自分が過去に執着している証であろうか。
しんと静まり返った夜の住宅街。バイトを終え、家路を辿っていた。昼までずっと雨が降っていたので、ジメジメした空気がまとわりつく。街灯が100メートルに2、3個だけの道をトボトボ歩いていた。高校を卒業した後、地元を離れ一人暮らしを始めた。親も地元の友達とも離れた生活の中、大学では趣味で天文サークルに入り、広く浅い交友関係を築いてきた。
はぁ、と無気力なため息をつく。最近始めたコンビニのバイトはなかなかやることも多くて、仕事が覚えられず怒られてばかりだ。
「俺、ダメだなぁ」
こうして怒られてばかりでは、どうしても弱気になっていく。高校生の頃は、星の博士になるんだ、と意気込んで受験勉強にも学校の誰にも負けないくらい励んでいた。成績はいつも1番だったし、周りからも褒めて貰えた。きっと自分は成功していくんだと、これから歩んでいく道は明るいと確信していた。しかし大学に入り、自分よりも優秀な人は山のようにいて、井の中の蛙であったことを知った。明るい道など自分には用意されていなかった。そう思い知らされてからは、勉強にも昔ほど取り組まなくなっていた。
ガサガサッ。暗がりの中、物音がした。驚いて振り返ると、草むらからキツネが2匹出てきていた。きっと親子であろう。わるい菌が移るのも嫌なので、追い払おうと、足で地面を叩き威嚇した。今まではこうすれば、カラスも野良猫も野良犬も決まって逃げた。しかし、キツネは逃げなかった。親ギツネであろう、子ギツネを後ろに隠れさせて、こちらを睨みつけている。鬼気迫る目つきに、怯む。吐き出せない何かを胸に感じたが、再び歩き出すことにした。10数歩歩いてから後ろを振り返ると、キツネの親子は居なくなっていた。
親ギツネは子ギツネを守ろうと必死だったに違いない。だから威嚇にも怯まず、こちらを睨み続けていたのだろう。夢に必死だった高校生の自分を思い返す。キツネと目的は違えど、自分は必死だった。周りの人々を圧倒し自分は正しい道を進んでいるのだと自分に証したかった。今はどうだろうか。周りに圧倒され、正しい道どころか、道を進むことさえ諦めている。情けない。まずは思い出すところから始めよう。なぜ自分はあんなに必死だったのか。きっかけは夜空に浮かぶ月を綺麗だと思ったことだ。
空を見上げる。10月の上旬、午後9時。東の空にオリオン座を見つけた。夜になって、空は晴れていたのか。それから、空全体を見渡して、次々と星座を見つけていく。大切な思いを取り戻すように、いちばん明るい星を、つまんで、胸にしまっておいた。
人に生まれたからには
愛の言葉を言おう
朝日が昇ったら
おはようと言い
風が草木を揺らすなら
こんにちはと言い
鈴虫が夏夜に鳴いたなら
こんばんはと言い
月が雲間から見えたなら
おやすみと言おう
生まれてしまったからには
愛の言葉を言おう
友達はいらなかった。
雲のドラゴンが火を吹いて、
作った雪だるまが微笑んで、
巨大な老樹が話を聞いてくれたから。
でも、
大人になって寂しくなった。
ある日突然
居なくなったから。
あなたは恨んでいるかなぁ。
あなたが選んだ道に
「行かないで。」と
呪いをかけた私を
あなたは恨んでいるよなぁ。