私の目の前のこの男、身長は180センチほど、薄黄緑がかった茶色の目をしたこの男は数十メートル先の男をじっと見ていた。数十メートル離れた男は魚を釣っていた。しかし、奇妙な男で、魚を釣ってはすぐさま水へまた放し、釣っては放すを繰り返していたのである。私と目の前の男はしばらく黙って見ていたが、目の前の男がおもむろに口を開いて言った。
「ありゃあ、いけねぇ。釣った魚をすぐ戻しちまうなんて。食うでも、観察するでもねえ。まるで意味がねえな。」
そう言うと男は立ち上がってどこかへ消えてしまった。
しばらくして、私の前に別の男がやってきた。可愛らしい顔をした、いかにも穏やかそうな男であった。その男は数十メートル離れた男を見つめて、言った
「あの人は何をしているのでしょうか。先程から小さな石を積み上げて、ある程度高くなったと思ったら、崩してしまう。こう言ってはなんですが、無意味な行動としか…。」
そう言うと男は黙って立ち去ってしまった。
日が暮れてきて、もう帰ろうかと思っていた頃、私の前に別の男がやってきた。焼けた肌がいかにもスポーツマンという感じで、真っ白な歯の、爽やかな笑顔が特徴的だった。その男は数十メートル離れた男を見つめて、言った
「さっきから水の中に手を入れたり、指でつついたりしているあいつ、そんな暇があれば腕立てでもすれば良いものを。意味の無いことをするやつだ。」
そう言うと、男は小走りに行ってしまった。
今私の結婚式には例の3人が来ていた。大学からの友人である彼らとは、もう10年の付き合いだ。3人のうちの1人、身長が180センチほどの男が私に話しかけてきた。
「いやぁ、お前がまさかあいつと結婚しちまうだなんて驚きだ。大学の頃はそんなに親しいイメージもなかったし、それに俺はてっきり…、いやいや、それよりも、どうしてあいつを選んだんだ?俺には検討もつかねぇよ。言わせてもらうと、少し奇妙だ。なぁ、教えてくれよ。」
私は言った
「彼が釣った魚をすぐ放して、石を積み上げては壊して、波紋の広がりをぼうっと見ていたから。」
集団の中で、「異質」は個性ではなく欠陥とされた。周りと違うことは、蔑み、敬遠される。
その醜さと恐ろしさを知ったので、何もかもどうでも良くなった。
それなのに、あの人は無責任に優しくするので、
私は柔らかい雨の中泣いた。
雨がいずれ乾いて、そしてまた独り。
鏡の中の世界はあべこべだったら、
そこにいる自分は頭も悪けりゃ運動音痴で、親切心の欠片もないようなやつなんだろう。
だけど毎日幸せそうに笑ってる。
クヨクヨ悩むこともなければ、孤独を苦にすることも無いんだろう。
あぁ、そちらへ行きたい。
日々、つまらないことに神経を使い、
周りの目を気にして自分の行動に自信を持てず、
いたいたしくも感傷的になり、
それを誰かに告げるほどの強さもないので、
永遠に朝が来ないで欲しい夜もある。
道を歩いている時にふと懐かしく思うことがあるのは、自分が過去に執着している証であろうか。