川原

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5/14/2025, 11:29:40 AM

「酸素」

別に吸うても味も香りもしないでしょうが

嬉しい時には香ばしく
心配事があるとチリチリ辛い

やってしまった後悔の苦さ重さよ
どろりと背中にのしかかる圧よ

ゆっくり深呼吸して
痛む胸をさすりながら
悲しみの位置を酸素と探ろう

辿りついた酸素は
二酸化炭素に変わり
私の代わりに 
淋しいとつぶやく

5/9/2025, 5:51:50 PM

「夢を描け」

最終の便で戻って来た
いちだんと大きな星をポカンと見ながら
ずり落ちるボストンバッグの持ち手を肩に戻しながら

何処に旅していても
私の家の鍵が鞄にあるように
何をしていても
手離せない夢はある

胸の奥に星が輝き続けている限り
未来が消える事はない
いつか扉を開くまで
夢の鍵を握りしめて









5/2/2025, 3:47:44 PM

「sweet memories」

むかし家にあった おもちゃの手押し車
押して歩くと アヒルの顔が
首を上げたり下げたり

そんな風に

幸せと後悔と
日だまりと痛みと
交互にひょこひょこ顔を出す

無表情なアヒルの木切れの顔が
憎らしく見えてくる記憶の反復横跳びだ

好きだった その記憶だけ
覚えていたいのに





4/26/2025, 10:06:39 PM

「どんなに離れていても」

しばらく河原の石だった
上流から ごろんごろん
他の石とぶつかり合ったり 離れたり
転がり落ちる間に 割れて剥がれて
剥き出しの尖った表面が
川底に刺さりながら また落ちていく

気がつくと河原だった
星が出ていた 
あの時剥がれた からだの一部が
遠い空から見下ろしていた

ここから海へと運ばれるのか
光に問うても答えは出ない
河原の自分にも飽きたら
今度は自分から転がるのもありかもしれない
それも良いねと
遠くで欠片のあなたは笑うだろう

3/1/2025, 1:53:52 PM

「芽吹きのとき」

あたたかな雨がわたしを濡らす
土の中で丸くなり眠っていた私は
かろうじて 多分まだ人

泥だらけの身体を起こして
ずり上がったシャツをジャージに入れ直せば
流石に立ち上がらなくちゃいけない
待たせてごめんねと言わなくちゃいけない

根気強く 返事をくれたあの人に
それが嬉しくもあり やれやれとも思う

おい 起きてるかい
どうやら春だよ
隣の畝に呼び掛ける私は
かろうじて まだ生きている





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