「落下」
後ろ背にお尻から落ちていく
底の見えない恐怖よ
手足は宙を舞い
夢中で掴んだそれは
昔遊んだブランコの鎖
遊んだ後は手に錆の匂いが付いた
鉄棒 ジャングルジム
滑り台の上から砂場にダイブ
ベンチではシール交換
チャームが揺れる香り付きのペン
ポケットにはおまけ付きのチョコ
誰かに名前を呼ばれた気がして
振り向いても誰もいない
手を離せばまた落ちていく
名前を呼んだのは私
手を離したのも私だった
「好き嫌い」
好き
嫌い
と花びらを一枚むしる度に呟き
最後に残った花びらが好きか嫌いになるかで
惚れた相手が自分の事を
どう想っているのか占う
花占い
昭和の少女漫画ではよく見たシーンなのですが
最近は知らない人も多いでしょう
だいたい 花びらが奇数なら好きで終わり
偶数なら嫌いで終わるので
令和ではそんな残酷で無意味な事はしない
男は足し算
(好意が右肩上がりの加点方式)
女は引き算
(相手の嫌なところが目につく度に減点していく)
ともめっきり聞かなくなりました
昔 私の母が言っていました
別れる時には
女は上書き保存
男は名前をつけて保存
これも主語がデカいかつジェンダー的に無理かつ
スマホ世代の方にはそもそも通じないかも
自分の事も相手の事も尊重しながら
好き嫌いを確かめていけたら良いね
令和の若者も 私達も
「街」
しずかにしめった路地裏に
靴音だけが響いてくる
切り絵の街
迎えに来る
その足音だけを待っていた
久しぶりだね
君はずっと 変わらないんだね
あの日の約束は覚えていたから
旅支度は済んでいる
添えられた象牙色の手に
そっと手を合わせたら
待ち侘びた年月分の
時が戻った
「やりたいこと」
会社の前の郵便ポストに
封筒を出しに行って
エレベーターから1階に降りた途端につまずいて
ビルの受付の人に 大丈夫かと声を掛けられた
疲れてるのかな
「たまに息抜きしないと
貴方の会社のAさんなんて
いっつもここで誰か男の人と雑談してたよ」
「Aさん辞めたけどね
私もそろそろ辞めたいよ」
「駄目だよ続けなきゃ 今の世の中
何があるかわかんないよ
物の値段もどんどん上がってて尋常じゃない
美味しいもの食べて 好きな事して
元気出すんだよ」
最近は推しのライブを観に行くのを
楽しみにしていると受付の人は言っていた
エレベーターの昇るボタンを押しながら
Aさんが話してた男の人は誰だったのか
考えていたら
むくむく元気が湧いて来た
腹黒で最低なワタクシであった
「岐路」
後から振り返って
あれが人生の岐路だったと思うならまだしも
今だね間違いなく 今立っているね
ああ立たされる 人生の岐路
この道しかないとは思わないようにしている
途中で気が変わって
引き返しても良いと思っている
道は一つじゃない
曲がり角でへたり込んで
空を眺めながら
しばし休憩しても良いじゃないか
何なら遠くのあの鳥に
海の方角を尋ねても良い
目印はつけて置いた
じゃあね雲雀
また何処かでね