Noma

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9/22/2025, 9:09:40 AM

「虹を渡りたいだって?」
淳は一瞬おどろいた顔をすると
「無理に決まってんだろ。バーカ。あれは水滴のスクリーンに光が当たってるだけだ」
私と同じ6才なのに、淳は物知りだ
淳の言葉の意味がわからなかった私は「バカ」だけ聞き取った
そして数秒後にバカにされたことに気が付き、腹がたった
「もし渡りたいんだったら、肉体を捨てて、自由意志で動ける、水滴か光の粒子になれば渡れるかもな」
「何言ってんのかわかんないよ!じゃあ渡れる虹を淳が発明してよ!」
「無茶言うなよ…」
「発明して!発明して!ねぇ!」
私が泣きじゃくると、淳は困った顔をした
「例え渡れたとしても、雨の中みたいなものだから、ビショビショになるよ?嫌でしょ?風邪ひいちゃうの」
淳は私にもわかるような言葉で宥めてくれる
私は淳のこういう所が好きだった
「だからほら」
淳が前方を指差す
「虹は見る方が絶対いいよ」
虹の架け橋が二人を包むように大きなアーチを描いていた

9/20/2025, 1:24:37 PM

親友と喧嘩した
きっかけはとても些細なことだった
しかし、お互いにヒートアップした結果、私は言わなくてもいい暴言まで吐いてしまった

あれから一年、私は大学生になっていた
スマホのチャットアプリには、一件の通知が常に残っている
高校卒業式の日に届いた彼女からのメッセージを、意地っ張りで強突く張りな私は無視し続けた
今はもう、怒ってなどいなかった
それでも、メッセージを開くのが怖い
卒業式のあの日、私は仲直りする最後のチャンスを失ってしまったからだ
もし今メッセージを見てしまったら、彼女との関係が本当に終わってしまう気がした

私が読まない限り、残り続けるのだ

私と彼女を繋げてくれる
既読がつかないメッセージとして

9/19/2025, 1:36:34 PM

「秋色って何色?」

小学生の息子が聞いてきた
我が息子ながら、賢い質問だ
秋の季節に感じる色とか、よく目にする物とか雰囲気のことだよと答える

「ふーん、じゃあ白色とグルグルだね」

うーん?
白?赤とか黄色とかじゃなくて?
そんなものあったかな?
それって何?と聞く

「台風」

…今度、嵐山に連れてってあげよう

9/18/2025, 1:30:59 PM

巨大隕石が地球に近づいているらしい

明日衝突する可能性が50%とからしい

衝突したら、人類は滅亡するらしい

各地で暴動が起こっているらしい

らしいらしいらしい

本当は、今日死ぬ予定だった

天井から吊り下げたロープを首に掛けたはいいものの

一向に机から飛び降りることができない

この世にいたくないのに、あの世に行く決心すらない

その時に、つけっぱなしだったテレビから隕石のことを知った

「もしも世界が終わるなら、きっと私は幸せ者だね」

超自然に、あの世に連れていってもらおう

だから、世界が終わるまでは生きてみよう

もうちょっとだけ生きてみよう

そう決心して、私は眠りについた


どのくらい時間がたっただろう

眠りから覚めても、いつもの天井だった

隕石は落ちなかったらし…落ちなかった

不思議と、絶望感はなかった

世界が生まれ変わって見えた

一度滅びかけたのだから、当然といえば当然だ

布団から起き上がり、ロープを片付ける

ご飯を食べて、部屋の掃除をする

久しぶりに、外出でもしてみようか

世界が終わるまでは、生きると決めたのだから

9/18/2025, 11:54:06 AM

僕は靴紐をうまく結べない

いつもはマジックテープで誤魔化しているけど

今日はサッカーの大会

試合中、解けてしまった靴紐をなおす

焦らず、ゆっくり、時間をかけて

試合後、仲の良い同級生に声をかけられた

「サッカーって動き激しいんだね〜」

そして一枚の写真をスマホの画面に写した

「これ、唯一のシャッターチャンス。うまく撮れてるでしょ」

画像には、しゃがんでいる自分

「待ち受けにしようかな〜なんて」

そう言った彼女の顔は少し赤かった

ドクンという心臓の音

その音とともに、指に絡まっている細い紐に気付いた

彼女の顔よりももっと、そして恐らく僕の顔と同じくらい赤い紐だ

この紐だけはしっかり固く結ぼう

決して解けないように

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