『鏡』
どんなことでも真実を示す。
嘘をつくことは決して無い。
僕はそんな鏡が嘘をつくのを初めてみた。
「白雪姫」という童話に出てくる魔法の鏡。
「鏡よ鏡、この世で1番美しいのは誰?」
この問いには答えがない。
だってそうだろう?
“美しい”の定義なんて人それぞれで、
美しさは比べるものではない。
だからこのとき鏡は嘘をついたのだ。
『いつまでも捨てられないもの』
一昨年の春、私の誕生日に彼氏からプレゼントを貰った。
とても嬉しくて毎日目に付くところに置いていた。
その年の夏、彼氏とお別れをした。
ある日、デートの帰りに交通事故に遭った。
横断歩道に猛スピードで突っ込んできたトラック。
彼は私を前に突き飛ばして、
轢かれた。
彼は下半身がぐちゃぐちゃになった。
彼は最期に「ごめんな、愛してる」そう言った。
私は「嫌だよ、どうして…神様!!」そう言ったけど
神様なんていなかった。
夏休みの計画表は彼と遊びに行く予定で埋まっていた。
私が死んでいれば良かった。
居なくなってもいいのは私の方だった。
彼の代わりに死ねば良かった。
そんなことを考えながらずっと飲まず食わずで部屋に籠もった。
私には幸せになる自信も、権利もなかった。
貰ったプレゼントは引き出しにしまって鍵をかけた。
鍵は捨てた。
彼との思い出は今でも、この先もずっと、
いつまでも捨てることはできない。
『誇らしさ』
早く起きることができた。
制服に着替えることができた。
バスに乗り遅れなかった。
学校に遅刻しなかった。
お昼ごはんを食べることができた。
家に帰ることができた。
今日も1日、生きることができた。
詩『夜の海』
大好きな海
大好きな音
大好きな香り
大好きな色
大好きな味
大好きな冷たさ
大好きが詰め込まれた暗い暗い海に向かって
私は走った。
後ろなんて振り返らずに。
ずっとずっと、遠くまで。
これより下のスクロールはご注意くださいーーーーーーー
物語『夜の海』
星空が瞬く海に来ていた。
…波の‘音’が聴きたくて。
悲しそうに彼は私を見つめながら
『どうしたんすか?こんな時間にお一人で浜辺に来て。折角の旅行なのに風邪ひくっすよ?』
手話は敬語なのに不思議とそう言っているように聞こえた。
【波の音を聞こうと思って!旅行の1番の目的だったの。】
声を出せない皆のために、手話で話すようにと約束したから
私も手話を使う。
それなのに彼は泣きそうな顔になって
『そうっすか、それは』
と言った後、手がピタリとまった。
【どうしたの?】
そう聞くと彼は珍しく慌てたように
『なんでもないっす!聴きたいなーと思いまして!』そう言った。
【そうだよね!いつ波の音聞こえてくるかな~?楽しみ!】
『皆にも聞かせてあげたいんで、呼んでくるっす!』
そう言って彼は別荘に走っていった。
(主様……。波の音、聴きたいんすね。とりあえず皆を集めよう)
2階のリビングに集め、事情を話した。
「なるほど、主様が…。」
「うーん、耳が回復することは…………。」
執事一同黙りこくり俯いてしまった。
「あるじさま…まだ記憶は戻ってないんですよね?」
「ああ。戻る可能性も低いだろうね…」
私は、今日確かめたくてここに来た。
本当に皆が声を発せなくなったのか、
それとも本当は私が聞こえなくなったのか。
でも、もう気づいていた。
もう知っていた。
だから私は、‘最期の我儘’でここに来た。
書き置きはベッドの上に置いてきた。
だから私はもうさよなら。
暗い暗い海の底へゆっくりと砂を踏みしめて歩く
海の冷たい感覚はするのに
体が沈んでいくのは見えるのに
潮の香りは分かるのに
時々口に入る波の味は判るのに
波打つ音だけは聴こえてこなかった
聴こえて、欲しかったな。
夜の暗さを映し、星のように光る水面に沈む
自分を見ながら首まで浸かった
それなのに、もう少しなのに足が動かない。
これ以上進むのが怖くて、恐くてどうしようもなかった。
「主様!?」「主様!!」「主様!」
「主様!!」「主様」「あるじさま…!」「主様?!」
「主様?、!」「あるじさま…!!」「主様!」
「主様!」「あるじ様…!!」「あ、あるじ、さま…?」
「あるじさま!!!」「主様!」「主様…!」
ふと首だけで後ろを振り返ると皆が走ってきていた。
このままだとだめだ
そう思ったときやっと足は前へ動き出した
耳が水に浸かってもドプンという音はなくて
なんで聴こえなくなってしまったんだろうと思った
もっともっと彼らの声を聴いていたい。それなのに…!!
「…主様!!止まってくださいっす!!!!!」
「主様!それ以上はだめだ!」
1番親しくしてきた彼らの声が聞こえたような気がした。
でもそれも気のせい。
息が苦しい。前も後も上下左右もわからない。でもコレでいい。
そう思いながらゆっくり目を閉じた。
※閲覧注意
「自転車に乗って」
風が髪を吹き抜けていく。
中学を卒業してからずっと伸ばし続けて、
ケアもちゃんとしてきた。
ずっと大切にしてきたロングヘアをハーフアップにして、
今日も私は高校の前まで行ってみる。
ーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーー
ざわざわと楽しそうな教室の声が、
窓はきっちり閉まっているはずなのに聞こえるような気がする。
毎度毎度感じて、その度に辛くなっている。
私は一月だけあの中に居たことがある。
男子の制服は普通の学ランで
女子の制服は可愛いセーラー服。
私は嫌いなスラックスに足を通して
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日通っていた。
何で制服なんてあるのか道徳の教科書に聞いたことがある。
教科書は貧富の差を学校で見せないため。
こう答えた。
貧富の差と個人の尊重ならどちらが大切だろうか。
皆表では「個人の尊重」そういう。
でも本心で思っている人なんて絶対にいない。
「貧富の差」のことだって気にしてる人はいない。
そんなことを考えていると気が滅入ってきた。
だから私は私が私でいられる場所に。
僕が『女の子』でいられる場所にいく。
彼らは僕を絶対に見捨てない。
必要としてくれている。
だから今日も彼らに会いに行く。