夏の匂い
私は吸血鬼。夏はだいきらい。
日の時間は長いし、夜になっても暑くて外に出られたもんじゃない。
その上弱っちい人間どもがいつまでもへらへらと我が物顔で道を歩く。
何十年前だったか、ここなら見つからないだろうと優雅に空を飛んでいたら危うく花火というものにぶち当たりそうになったこともある。
突然固まった雨が降るし(私たちは流水で肌が焼けてしまうのだ)、かと思ったら雲の隙間からとんでもない日差しが落ちてくる。
こんな季節が好きな吸血鬼がいるならそれはとんでもない変態だ。
骨董品のラジオが日付の変更を伝える。私は人間どもの使っているカレンダーをめくった。
6月30日が剥がれ落ちた先に、忌々しい7月!
ああ、憂鬱。また夏が来る。
カーテン
2階の窓を開けて家を出て、帰ってきたら土が散っていた。
決して物騒な話じゃない。風で膨れ上がったカーテンが窓際のサボテンに接触したらしいのだ。
そこから土を撫で上げて、床へぽいぽいと放ってくれたらしい。
サボテン自体は無事である。何事もない表情で外出前と同様に青々としていた。
幸い連日の猛暑日でカラカラに乾いた土なので片付けは簡単に済みそうだ。
ちりとりを手に床に膝をついた私は接触したであろうカーテンを手に取る、と同時に鋭い痛みに襲われた。
……トゲが刺さっている。サボテンの――いや、サボテンさん、の無言の不満と怒りがカーテンをけしかけた私へと向いていた。
私はトゲを抜いて土を片付けたあと、肥料をサボテンさんの前に置いた。今日はどうにかこれで。
青く深く
淡い青もいいけれど、濃い青もいいな。そう思ってチューブを絞った。
太陽の光が真上にある夏。僕は宿題のためにイラストボードに筆を踊らせている。
クーラーの効いた部屋でストローを刺した麦茶を啜りながら描くものは、特にこれとは定めていない。
気持ちのままに塗るこれのタイトルだけは「夏」と決めていた。
だって夏の宿題だから。逆に深いとか思ってくれるんじゃないか。
僕は何も考えてないけれど。
夏といえば。ギラギラの陽の光、眩しいほどのビタミンカラー……海や空の青。
そう思ったから、とりあえず青をぺたぺた塗った。これは空にしてもいいし、海にしてもいい。
単純な青だとつまらないから、少し赤みも足した。
紫になるほどじゃないくらいなら濃く見えるのだ。
たくさんの色を足せば足すほど深く濃くなり、最後には黒になる。死の色だ。
もしかして季節ってこういうことなのかな。
時間とともに色をたくさん重ねて、ついには黒い冬になってリセットされて、また春にはまっさらな上に淡い色を乗せるのだ。
あ、これって深いかも。
タイトルを「季節」に変えようかな。
……誰もわかってくれないかも。やっぱ、「夏」かな。
夏の気配
雨。蒸し暑い。
呼吸すら難しいこれを超えたら、からっとしたあの懐かしさに戻れるのかしら。汗、笑い声、涼しい風。遠い。もう手の届かない、