病室
病室の窓からさしこむ朝日で、私は目を覚ました。白い天井と、風で揺れるカーテンをぼーっと眺める。もう何日ここにいるのだろうか。角に置いてあるテレビも、外の景色も、もう見飽きた。私の同居人の彼女は、毎日お見舞いに来てくれているのだと看護師さんに聞いた。でも、私はだいたい寝ているので気づかない。もうずっと彼女と会えていないようで寂しい。もし今日も来てくれたら、今度こそ眠らずに、彼女と話したい。
しかし、そんな私の意思に反して、瞼はどんどん重くなる。眠い。今日こそは起きていようと思ったのに。意識が遠のいていく。もう嫌だ。彼女に会いたい。でも体は言うことを聞かなくて、目の前が真っ暗になった。
『__の、ひなの、』
私を呼ぶ優しい声で目を覚ました。心地よいまどろみの中で、彼女の声だ、と思った。少しトーンを抑えた低めの声。
また優しく名前を呼ばれる。私はうっすらと瞼を開けた。明るい光がさしこんでいる。
ふと、彼女の手が私の頬に触れた。温かい、人肌の感触。ああ、やっと会えた。私は彼女の温もりに身を任せて、再び眠りについた。
明日、もし晴れたら
土曜日の昼下がり、私は家のソファーの上で丸くなった。窓の外からは絶えずバシャバシャという激しい雨の音がする。今日は出かけられなさそうだな。私は基本的に休日はアウトドア派なので、家の中にいてもやることがない。暇すぎて死にそうだ。今年から私も受験生なのだから、勉強でもしろというものだが、溜まりに溜まった2週間分の課題には、いまだに手をつけていない。もしそのことが同居人にバレたら、またぐちぐちと文句を言われそうだ。私は一年ほど前から、2歳年上の大学生と同居している。親族でも友達でもないのだが、なぜか毎日一緒に過ごしているのだ。意地悪で上から目線な彼女と、同じ屋根の下で暮らすのは窮屈そうだが、案外そうでもない。なんせ家事はすべて彼女に任せているし(本人は面倒そうだが)、勉強も教えてもらえるからだ。そんな彼女と、今日は2人で映画を観に行く約束をしていたのだ。なのに、こんな天気になってしまった。外の様子からも分かるとおり、相当な降りようで、政府から大雨警報が出されたのだった。彼女との外出は初めてではないけれど、それなりに楽しみにしていたというのに。なんだかんだ、私は彼女のことが大好きなのだ。こんなことを言ったら、気色悪いと睨まれそうだけれど。そんなことを考えながら、ソファーの上でうーんと寝返りをうつ。ふと視界のはしに、彼女がたたんでくれた洗濯物が見えた。一つ一つ丁寧にたたんである。几帳面な彼女らしい。私はもう一度寝返りをうって、冷蔵庫の横にかけてあるカレンダーに目をやった。今日は2月10日。バレンタインまであと少しある。せっかく家にいるのだから、いつも家事や勉強を教えてくれる彼女に、チョコでも作ってみようか。少し早いけれど、まあいいだろう。彼女が帰ってくるまでまだ時間があるから、その間に作ってしまおう。そして、疲れて帰ってくるであろう彼女に、一番に渡すのだ。いつもありがとうの気持ちをこめて。