急なお手紙でごめんなさい。
でも、これだけは一番に伝えたかったので、筆を取らせていただきました。
私は、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に選ばれました。
なので、明日からは⬛︎⬛︎へ引っ越すことになります。
もう会えないかもしれません。
ごめんなさい。
ダメだ、私謝ってばかりいますね。
あなたが言ってくれたのに。そんなに卑屈になる必要はないって。何も悪くないって。
私、嬉しかったんですよ。
そんなこと言ってくれる人、周りに誰もいなかったから。ギュッと抱きしめて、頭を撫でてくれる人なんて、いなかったから。
初めてを沢山くれた。
愛をくれた。
私、幸せだった。
でも、もうダメみたいです。
神様に見放されちゃいました。
こう言ったらきっとあなたは怒るだろうけど、最期に言わせてください。
今までありがとう、ごめんね
部屋の片隅で、もう一方の片隅を見ている。
何かが立っている。
気配はあるが、見えない。
幽霊かもしれない。
「あなたは誰ですか?」
と声を掛けたら、気配が無くなった。
きっと、人見知りの幽霊なんだろう。
あなたは滅多に「さよなら」を言わない人だ。
だって、明日もまた会えることを知っているから。
会えることに確信があるから。
だから、あなたの「さよなら」は、
永遠に聞きたくないんだ。
私の隣の席に座っている西条さんは優等生。
校則通りのスカート丈に、第一ボタンまでとめているブラウス、学校指定のジャケット、耳より下でくくっている綺麗な黒髪。
無遅刻無欠席で、成績は学年一位。
生徒会副会長を務めており、噂では生徒会長と付き合っているそうだ。
まるで漫画から抜け出してきたような生徒だった。
ある日、塾で授業が長引いてしまい、帰るのが遅くなった。いつもは通らない秘密の近道、いわば路地裏を駆け抜けようとした、その時だった。
ふわり漂うタバコの煙。
つんと香る大人の匂い。
いつもは気にならないはずなのに、その晩は思わずその源を目で追った。
「「あ」」
声が重なる。
それは私の隣の席の優等生、西条さんだった。
周りには見知らぬ男たち。ピアスをあけていたり、髪を派手な色に染めていたりと様々だ。
西条さん自身は学校の格好のままなのに、悪そうな男とタバコと路地裏というシチュエーションが、西条さんを違う人に見せている。
西条さんは何も言わない私に向かって目を細めると、フッとタバコの煙を吐いた。
「ここでのことは、内緒にね」
そう口元に指を当てて言う声が、妙に色っぽくて。
私はたまらず逃げ出してしまった。
あれから西条さんを見るたびに、私はあの晩の彼女を思い出す。
光と闇の間で生きている彼女は、いつもと変わらぬ調子で、私の隣の席で教科書を広げている。
夜空で仲良さそうに並んでいる星を見て、
「あれ、私たちみたいだね」
そう言ってあなたは笑ったけれど、
実際の星はもっとずっと遠い距離にあるんだって、
教えてあげればよかったな。
それとも、あなたは知っててそう言ったのかな。