私の隣の席に座っている西条さんは優等生。
校則通りのスカート丈に、第一ボタンまでとめているブラウス、学校指定のジャケット、耳より下でくくっている綺麗な黒髪。
無遅刻無欠席で、成績は学年一位。
生徒会副会長を務めており、噂では生徒会長と付き合っているそうだ。
まるで漫画から抜け出してきたような生徒だった。
ある日、塾で授業が長引いてしまい、帰るのが遅くなった。いつもは通らない秘密の近道、いわば路地裏を駆け抜けようとした、その時だった。
ふわり漂うタバコの煙。
つんと香る大人の匂い。
いつもは気にならないはずなのに、その晩は思わずその源を目で追った。
「「あ」」
声が重なる。
それは私の隣の席の優等生、西条さんだった。
周りには見知らぬ男たち。ピアスをあけていたり、髪を派手な色に染めていたりと様々だ。
西条さん自身は学校の格好のままなのに、悪そうな男とタバコと路地裏というシチュエーションが、西条さんを違う人に見せている。
西条さんは何も言わない私に向かって目を細めると、フッとタバコの煙を吐いた。
「ここでのことは、内緒にね」
そう口元に指を当てて言う声が、妙に色っぽくて。
私はたまらず逃げ出してしまった。
あれから西条さんを見るたびに、私はあの晩の彼女を思い出す。
光と闇の間で生きている彼女は、いつもと変わらぬ調子で、私の隣の席で教科書を広げている。
12/2/2024, 1:53:55 PM