「 コウノトリ。 」
【※批判的、妊娠中絶、堕胎等の内容がふくまれます。嫌な方は戻るかスキップして次の話を読んでください。】
私は考え無しのバカは嫌いだ。
後先も読めぬバカは嫌いだ。
アニメ・マンガなどフィクションだけにしてくれ。
無知が罪とは言わん。
だが、知ることができたはずなのにあぐらをかいて知ることを疎かにしないでくれ。
欲に駆られ流され、快楽に溺れ、行き着いた先、悲劇に堕ちてくのだ。
ピロロロロ...
...あぁ。
ピロロロロ...
.....あぁ、またか。
ピロロロロ...
また、命をすくことになるのか。
ピロ...
はい、もしもし__
そこは、裏路地にある小さな事務所。
手垢で汚れ使い古されているであろう固定電話機に一本の電話がなった。
はい、わかりました。はい、今日の午後四時、十六時ですね__
早速準備に取り掛かろう。
本来なら予約してから来てほしいが、早急にお願いされる事はたまにある。
ときにキミは堕胎という言葉を耳にしたことはあるだろうか。
似たようなものとして妊娠中絶があるが、その違いは期間と合法か違法かだ。
近年、母体保護法(旧:優生保護法)で合法化されているのが中絶。
日本では、公式の統計数だけでも年間三○万件ほどの中絶が実施されている。
中絶できるのは妊娠二二週未満とされているのだが、これを過ぎてもなお中絶をしたいという人達が居て、ヤミの世界で違法に堕胎をしている。
全くもって世話のない話だ。
母体保護法では、「経済的理由」による中絶も合法化してしまっているので、この条項の拡大解釈によって、バンバン中絶が実施されているのが現状だ。
望んでも子が出来ない方々からすれば、ツライ現実かも知れない。
もともと、母体保護法の前身である「優生保護法」は、「優生学」に根ざした法律だ。
優生学というのは....
「不良な遺伝子を持つ者を排除し、優良な国民のみを残して繁栄させる」
という思想に基づく学問で、要するに、不良な遺伝子を持つ者は子供を産んではいけない、不良な遺伝子を引き継いだ胎児はこの世に生まれ出てはいけない、という差別思想だ。
胎児は、立派な生命体の形をしている。妊娠が進めば、人間の形にどんどん近づいてくる。胎児に意思能力はないかも知れないが、ある段階以降は、感情らしきものも十分芽生えているはずだ...。
堕胎は極端に言ってしまえば "殺人" だ。
私は今日も金を貰い "殺人" をする。
やり方は中絶となんら変わりはない。
だが、前記のとおり感情がある生物を "殺す" のだ。
とはいえ来る人たちの大多数は考え抜いた末に最終的に自分の意志。
降ろしてほしくて来るのだ。
殺人という物騒な言刃は胎児も私自身も傷つく。
なので、私は考えを変えることにした。
"救い"。
そう、救ってる。
様々な理由で来る悩める子達の為に不運にも不遇な環境に生まれてこなくてはならない子達の為に救っているのだ。
私は今日も金を貰い不遇なる人たちを救う。
金が無いから産まないのに、どこから堕胎する金を捻出してるのだか。
大半は未成年の場合が多い。
そういったものたちはわかるが、三十路を過ぎている者たちもいるのだ。
いい大人して何やってるんだか、同じ大人として恥ずかしい。
今回来る患者は二三歳の大学生だそうだ。
大学に通える頭はあるのに性の知識は動物並みとは恐れ入った。
大学はときたま人を堕落させるとは聞くが...親が可愛そうだよ。
運が悪かったか退化したか...
日本の性教育を見直してほしいものだ。
私みいな人がいない世の中になるのが理想的だが....
愚痴はしてもし足りない。
そして、今日は騒がしい野鳥が見当たらない。
そう思いながら屋上の喫煙所でいつものようにココアシガレットをかじる。
残りカスのせいで砂糖の味がしないな。
ヤニは嫌いだが匂いは落ち着く.....
__施術は問題なく終わった。
黄昏時の喫煙所。
今日はやけに静かだな....
そう思い手すりに手を掛けて見渡す。
__気づけば、口の無い無数の子供が私を見ていた。
背中を押され屋上から堕ちた私は掻き出され赤子のようだった。
あぁ__。
野鳥はここに居たのか。
「行かないで。」
【 踊るように 。】
__宵闇の中、聞こえるは風切りの音と...
いち、に、さん、よん....。
__共に聞こえるは若人の声。
はちじゅう!いち、に、さん....。
__それは少しづつ早くなっていく。
にひゃく...ごじゅう...さんびゃく....。
__若人は一心に剣を振るう。
その剣の先には何があるのか、何が見えているのか。
若人。されども、堅実に努力をし続ける様は美しくとてつもなく輝いている。
宵闇の中にあるその姿はまさに" 月 "の様である。
__真月。
月のような輝きを放つ剣舞の名。
その光は若さゆえの輝きなのだろう。
踊るように舞うその姿が赤く塗られないことを祈るばかりである。
『目が覚めるまで。』
眠れる森の美女に出てくる魔女のリンゴ。
そう、あの有名な毒リンゴ。
ねぇ。あなたも知ってるでしょう?
でも本当はね?毒なんかじゃなくて運命の人を選別する魔法のリンゴなんだと...
私は思っているわ。
暴力を振るう父や母、いじめてくるクラスメイトたちから私を救って?
あぁ...。早く会いたいなぁ...。
「おやすみなさい。」
辛い現実から甘い夢の中へ。
彼女はすりおろしたリンゴに大量の睡眠薬を入れ、それを飲み干す。
運命の王子様が彼女の目を覚ましてくれることを夢にみて。
『もし、晴れたら。』
湿った匂いとよく知る音が聞こえる。
瞼をあげると雨が降っていた。
部活が終わり帰りのバスを待っていた私はいつの間にか寝てしまっていたようだ。
寝ぼけ眼のまま自然な動作でスマホの画面を照らし見る。
「.....十四時」
約一時間ほど寝ていた。
固いベンチで寝ていたからか体の節々が痛い。
体を伸ばすために立ち上がり体を反らす。
陸上部のスラッとしたラインと小さくもない凹凸が強調され、それによって生まれる僅かな隙間からおへそが顔を見せる。
「ッ――ふぅ.....?」
ふと視線があることに気づいた。
「あ、先輩」
『...ご馳走様です』
体を伸ばしたまま固まる私。
気まずい空気を私のお腹が壊した。
ぐぅー。
「先輩、ご馳走様です」
『....はい』
そこから二人は無言のまま雨が上がるのを待つのであった。