「明日は遂に歴史に刻まれる瞬間となり
そして、私の最期の日でもあるだろう」
そう言い放った貴女の瞳は
覚悟と揺るぎなき信念に満ちていた
でも、その覚悟の裏にある恐れと憂いを
私はずっと知っている
「怖いのか、貴女が向かわんとする死の先が」
私が問うと、貴女は微笑んで頷いた
「怖いさ。私のように反乱を率いたものは
きっと天に迎え入れられることもない」
こんなに泣きたくなったのはいつぶりか
人々を救おうとした貴女の想像する未来が
あまりに報われないものであるように感じて
「天国は遠く在るものだ
近くに在っては皆すぐに行きたがってしまうだろう」
口をついて出た夢物語に己が呆れたが
「その通りだ」と笑う貴女に、私は心から祈った
願わくば、遥か先の平和な未来で
貴女が全てを忘れて幸せに生きられるように
それが、風とともに自由を謳う貴女への
唯一の手向けだっただろう
貴方は私の憧れだった
だから貴方がいなくなった後
ずっと貴方の軌跡を追った
最後まで貴方に届くことはなかったけれど
私はそれで幸せだった
憧れは憧れのまま
二度と貴方に追いつかないままで
ずっと理想を探していた方が幸せだから
太陽みたいに暖かくて
いつも私を助けてくれる貴方のことが
私は好きになれなかった
貴方はきっと皆に愛されていて
皆に必要とされていて
それを思い出すたびに
私は特別になれないことがわかっていたから
貴方はいつも私を惨めにさせた
私はずっと貴方を追いかけ続けて
だけど貴方はそのことに気づきもしない
それでも貴方を嫌いになれなかった
だって貴方は私がどんなに過ちをおかしても
いつだって月のように優しくて
慈愛をもって、私を許してくれたから
先の見えない闇の中で
ふとした瞬間に思い出してしまう
不安も悲しみも
全てを忘れさせてしまうような
眩しくて暖かい貴方の優しさを
私たちの王は独裁者なんかじゃない
ただ、今の時代を終わらせるこの革命に
巻き込まれただけの不運な人なのだ
だからこそ私は、例え全てを失ってでも
主の命だけは守り抜くと誓った
きっと貴方は反対するだろう
王とは自らが治める国と共にあるものだと
民によってこの命が終わるのなら
きっとそれこそが相応しい最期なのだと
ならば私は一人の国民として
国王をこの国から連れ出してみせよう
ここから離れたらどこへ行こうか
来世というものがあるのなら、自由を望むだろう
そう言って笑ったかつての貴方の憧れを
他でもないこの私が叶えてみせるのだ