夜明け前、陣痛が10分おきになった。入院していいですよ、とやっとOKが出た。
あの頃、富士山の麓に住んでいた。夫の運転で真っ暗な道を進む。
健康でさえあれば、と思っていた。なんて傲慢な望みだったのだろう。
痛みの合間にそんな事をつらつら考えた。初めての出産が正直怖かった。
ほんの少し辺りがグレーがかってきたその時、
車窓の片側に
巨大な、知的な、とてつもなく古い何かがうずくまっていた。視界の半分が塞がり、私は圧倒され震えた。
まもなく病院につくという頃空が白み、ぼんやりと稜線が見え、それが富士山だとわかった。その瞬間
あ、大丈夫だ。何かあっても富士山が守ってくれる
と、何の根拠もなく安堵した。
あれ、何だったのかな。
生まれた息子には、山にちなんだ名前をつけた。
-夜明け前-
寝たふりした私を
抱き上げた分厚い手のひら
耳たぶをいじりながら
寝付く娘の甘い息づかい
コタツでゴロ寝
気づけば胸の上に猫2匹
遠い日 五感が覚えた
温もり 匂い 手ざわりが
突如私を襲い
私を慰め
どこかへ消えてしまう
記憶と喪失感が
寄せては返す 波のように
-喪失感-
世界に一つだけ残された銭湯には
世界中から銭湯ファンが集結
男湯も女湯も
家族風呂もソロ風呂も
壁にはエベレストスフィンクス
脱衣場でダンスバトル
あちらの紳士から一杯
もう何でもあり
毎日毎日満員御礼
お誕生日には銭湯
プロポーズも銭湯
今はの際に銭湯
楽しもう
この世の終わり
-世界に一つだけ-
最近心拍数が上がった瞬間
右折しようとしたらトラックの陰からバイク
お願い、神席が来ますように
そのゴミ収集車、ちょっと待って
すみませんお母さん、息子さんが学校に来てません
我が家のトイプー、心臓手術に50万
生きているといろいろありますね
もう少し
「ときめき」由来の鼓動求む
-胸の鼓動-
体育の時間が苦手
速く走るように
遠くへ跳ぶように
足をつかず泳ぎきるように
見本通りに踊るように
いろいろ要求されるけど
体は言うこと聞いてくれない
そんな自分を恥じる15の私へ
50m走12秒でも
なんにも困らず大人になったよ
ゲラゲラ笑って
ズンバを踊ってるよ
-踊るように-