夜明け前、陣痛が10分おきになった。入院していいですよ、とやっとOKが出た。
あの頃、富士山の麓に住んでいた。夫の運転で真っ暗な道を進む。
健康でさえあれば、と思っていた。なんて傲慢な望みだったのだろう。
痛みの合間にそんな事をつらつら考えた。初めての出産が正直怖かった。
ほんの少し辺りがグレーがかってきたその時、
車窓の片側に
巨大な、知的な、とてつもなく古い何かがうずくまっていた。視界の半分が塞がり、私は圧倒され震えた。
まもなく病院につくという頃空が白み、ぼんやりと稜線が見え、それが富士山だとわかった。その瞬間
あ、大丈夫だ。何かあっても富士山が守ってくれる
と、何の根拠もなく安堵した。
あれ、何だったのかな。
生まれた息子には、山にちなんだ名前をつけた。
-夜明け前-
9/13/2024, 3:33:46 PM