「空恋」(一行詩)
空梅雨に蛇の目傘出番なしと我が心
空梅雨に君に笑顔なし片想い
「波音に耳をすまして」(一行詩)
波音の野蒜浜に遠い記憶の波
波音に不思議な声が籠る満月の夜
「青い風」
レトロな喫茶店で貴女を待つ
喫茶店の近くに貴女の仕事場がある
テーブルにはメロンソーダ
ストローでメロンソーダを吸い上げていく
喉に冷たく緑色の微炭水が通り乾いた喉を潤す
時計の針は3時を刺している
貴女がこの喫茶店に来るのはいつも3時過ぎだ
もう一口
メロンソーダを吸い上げていく
(カランカラン)
店のドアに括り付けられていた鐘が鳴る
「お連れ様がお待ちですよ」
「ありがとう。ブルーソーダをお願いするわ」
「かしこまりました」
私は入り口の方を見る
貴女は店員と会話した後
私の座る席に向かってきた
「お待たせ。」
貴女はビジネスバックを椅子の端に置いた
「ブルーソーダ、お待たせしました」
運ばれてきたのは、貴女がいつも注文する
ブルーソーダ
私たちに席に「青い風(ソーダ)」が届く
カランと氷が鳴った
「遠くへ行きたい」(詩)
寝台特急の北斗星と青函連絡船で遠くへ行くことを夢見ていたけど、
夢を叶えることが出来ないまま二人は引退してしまった
二人が引退したことを機に自分は遠くへ行きたいと思わなくなってしまった
「クリスタル」(詩)
バシャ…
籠から小さな硝子の瓶を取り出す
籠には複数の瓶が入っている
「…気泡が入ってるけど、うん、状態が良い」
洗ったばかりの小さな硝子瓶には商品名と製造元の会社名が小さく刻印されている。
バシャ…
2個目の小さな硝子の緑色の瓶を取り出す
「…これは細かい傷が多いけど、まぁまだ許せるかな。緑色が濁りがない」
僕の趣味はボトルディキング。
僕が住んでいる町は産業工場が盛んで様々な産業瓶が生産された。
戦後や90年初頭のバブル崩壊による廃業となった産業工場跡地からは今も昔の硝子瓶が時々更地から出てくる
休みとなれば、海岸や川岸や下流域に行き戦前や昭和初期に製造されたボトルを探す。
拾い集めた瓶を持ち帰り、保存状態を確認しながら洗浄していく。
時折、破片を組み合わせて瓶を組み直すこともある。
ただそれだけのことなんだけど、瓶の形によって製造年が違うし瓶の透明度も違う。たかが瓶。されど瓶。戦前戦時中の瓶なんか特に魅力的な瓶ばかりだ。
僕が透明度の違う瓶に不透明感のある瓶に緑色ながらクリスタル度が見える瓶を集めて、瓶と云う姿をまた甦らせる。
瓶の破片を太陽の光に翳す
不純物が混じった不透明感のある瓶の破片は
透明の姿にならなくても、その時代の細工の味やいがある
「夏の匂い」(全て一行詩)
蚊取り線香の匂いがするのは朝方の匂い
線香の匂いで亡者は目を覚ます
緑の渦巻きによる夏の到来を知らせる
蚊遣香のない蚊遣り豚
蚊遣りの匂いを纏い去る一夜の酔夢
朝方の墓参りに赤き点の光り
真夜中に線香漂う菊の顔
30分燃焼の間に読経を唱える真夜中