「過ぎた日を想う」
「過ぎた日を思ってもあの日は戻って来ないんだ。
現実を見なさい」
カレーうどんを啜りながら云う先輩。またやさぐれている。
「…今度は何をやらかしたんですか?」
「失礼な云い方を。今も後悔してるんだ。」
先輩はカレーうどんを啜り、うどんを飲み込んだ後、遠い目をした
「何に後悔してるんですか?」
「…限定販売の馬のフィギュアをだな、たった1日の勘違いで
予約を見逃したんだ。その予約券を昨日偶然みつけてしまってな…。」
予約券には202x年10月6日と記載されている。数年前の予約券。
「私は予約締め切りを10月7日と思い込んでいてな、
7日に店に行って予約をしようとレジでこの予約券を出したら
予約は昨日で締め切りましたので無効ですと…」
「私は慌てて締め切りを見たんだ。そしたら6日…6日…ふふふ」
「限定販売の馬のフィギュアて…そんなに欲しかったんですか?」
先輩は限定販売だった馬のフィギュアの画像を見せてきた。
「良い馬だろう?私はこの馬のファンなんだ。
中々黒い馬が居るのはない。鬣が格好良いだろう?
額に星形の模様があるんだ。写真集も集めている。
出場となればレースを見に行く。ふれあいがあればふれあいに行く。
その馬のフィギュアが出るとなれば、必然的に買わざる得ない。
しかもこの馬の原型師が動物のフィギュアを作らせたら敵う者はいないと云われている人が担当している。この原型師のファンでもある。
絶対的に手に入れたいのだよ」
超絶に語る先輩のスマホにファンだと馬とファンだと云う原型師の作品が次々と映し出されいく。ついでに先輩が集めているその原型師の
コレクションも見せ付けられている。
「しかし…私は絶対的ミスをしてはいけないミスをしてしまった」
「その言葉、仕事にも使って欲しい言葉ですよ。使う場所を間違えてます」
先輩の視線はスマホに向けられ、耳には届いていないようだ。
「…数週間後に呟きの方で馬が届いたと云う報告呟きを見てな…
この時ばかりは呟きを見るべきではなかったと後悔してな…。
あの日のことは今も忘れずにいるよ」
先輩は冷め始めたカレーうどんを再び啜り始めたのだった。
「踊りませんか?」
真夜中の森の奥て月明かりを浴びながら、
赤のヒールの音を立てて
ジブシープリーツスカート
黒髪を靡かせて
ジブシーダンスを踊る
両手を天にかざして
美しくユラユラさせる動きをして
指先まで神経を尖らせて
アナタを誘惑させて
ココロを踊らせて
さぁワタシと一緒に
踊りませんか?
踊らされてるのは
ココロまで
この身体は
アナタの掌の上では
踊らせないわ
「巡り会えたら」(一行詩)
たまたま入ったリサイクルショップで見付けたアナタを衝動買い
◆
一度手放した物に再び巡り合う前買った時よりも高峰の花となって
◆
一度ならぬ二度巡り会うことは買えと云うことなのだろうか?
◆
在るべき場所ではない場所で巡り会うのは運命の悪戯か?
「奇跡をもう一度」
奇跡、軌跡、奇蹟、鬼籍…。あ、最後は違ったな。
「奇跡て一度にならず二度も三度も起きたら
奇跡て云わなくなる。現実を見なさい」と
貴女は拉麺を啜りながら云う。
「…身も蓋も無い…奇跡があることに夢を見たいじゃないですか」
「奇跡に夢を持った所で何になるの?奇跡があるなら、
奇跡が起きてくれって願うっつーの」
テーブルにくしゃくしゃになった馬券。
僕はくしゃくしゃになった馬券に目を通し広げた。
先輩がやさぐれてるのは掛けた5万が見事に外れて
帰り道に買い物帰りの僕とばったり逢いアンタの運のツキワルさよと訳の分からない事を云いながら僕に拉麺を集り今に至る。
「あの番でいけるって思ったのに、なぁんで彼処で抜かれんの
最後に最後でそれこそ奇跡が起きても良いじゃんね」
奇跡は起こらない。5万損した。
明日は仕事。奇跡は起こらないと
先輩は呪文を唱えるように繰り返した。
「たそがれ」(一行詩)
たそがれに黄昏て彼岸花を撒き散らす
◆
たそがれに捨てられた菊の花は寂しかろ
◆
たそがれに黒猫と白猫は手招きの影
◆
たそがれに君の影は伸びて化けの皮