舞台は暗闇。
ひとつのテーブルを照らす光の弱い照明。
かすかに揺れ動く光のもと、「私」はテー
ブルを片手で叩きつけた。
私 もう私なんかの為に優しくしないで!
(キッと睨みつける。)
「あなた」は微動だにせず、真っ直ぐに
「わたし」を見つめる。
あなた ああ、そうかい。
(頷いて、テーブルの上にそっと両手を置く)
君は随分と人に優しくされたようだが、自分から優しさを与えず、その上自ら身を引かずに相手を遠ざけさせようとしている。
君は人の優しさを受け止めていない癖に、優しくするなと言い返しているんだ。実に優しくない人だね。
「わたし」は「あなた」に向かって、雄叫
びを上げて女々しく泣いた。
「あなた」は母性も父性も目覚められない
胸に手を添えて、音のしない心臓の鼓動に
耳を傾けた。
幕。
(250203 やさしくしないで)
きのうのおてがみをよまれましたか
みみでおつたえしてもむずかしいので
このはをおてがみのかわりにかきました
これはままならないわたしのおもいですが
あなたはぬかりなくおみとおしのようですね
わたしにはけほどのちえもなにもありませんが
ことばにするだけのせんじんのおしえがあります
(250202 隠された手紙)
上野駅の雑貨店前で、スマートフォンを触っていたら、色黒の外国人2人に声をかけられた。ちょうど私が停車駅かのように、2人はぴたと止まった。
向こうは、14番はどこだとぎこちない日本語で尋ねた。私は、14番乗り場に行きたいのかとすぐに理解し、上野駅の10番以降の乗り場って分かりづらいよねと迷子の相手に同情しながら、辺りを見回した。
偶然にも、左手にお目当ての乗り場に通ずるエスカレーターが見えたので、あっちだと指を差した。
2人はありがとうと言い慣れたお礼をして歩み始めた。私はてっきり日本旅行かと思い込み、彼らの旅路を祈るようにバイバイと手を振った。彼らも手を振ってくれた。
彼らの行く道に私という枝折りがはさまれて、こんな具合に世界の流れを生み出すのだなと愉快になった。
(250201 バイバイ)
旅路の道中から女の身体を作る、
そんな麗しい旅が出来たら良いのに。
砂浜で拾った桜貝を足の爪先にして、
足の甲らしい踏み面の広い階段を一段ずつ踏み、
ふくらはぎの緩やかな曲線に似た橋を渡って、
途中ひかがみのような窪みにつまずき、
柔らかな太ももと同じ白い花を触って行って、
二股の道に迷い迷い、暗いトンネルを潜り、
盛り上がるひじり山を登って降って、
背筋のように真っ直ぐな道をただただ歩き、
うなじの憂い漂う急な坂道を恐る恐ると上って、
黒髪垂らす柳の下をかき乱してはとかしていく。
これはまだ女の身体を生み出す旅の途中だ。
可愛い子にはぴったりの旅になるだろうよ。
(250131 旅の途中)
相手は知らなくても君が知っているのなら、
秘密の窓を眺めるのに充分だろう。
だがまだ知らないのかと、
ただただ優越感に浸りたいだけの
その劣等感コンプレックスを、
君はそろそろ知るべきだ。
(250130 まだ知らない君)