時計の針が重なった。
正午だ。
おい、昼飯行こうぜ
さっきから壁時計を凝視していた僕は、吉田の声に振り返る。
こないだ言ってたライブさ、チケット取れたんだ。すごくね?やっぱ日頃の行いの良さ?だよねえ。
でさあ、今朝なんか来る途中めっちゃ綺麗な子見かけてさあ、、、
吉田はお喋りだ。僕の返事の有無などお構いなしに、男にしては高い声で無邪気に語る。
12時20分
近所の定食屋で日替わりを食べながら、吉田の声をBGMに、俺の脳内を占めるのはさっきの時計。
秒針、短針、長針、
規則正しい動き 規則正しい音
それらが刻む時間 描く時間
蓄積 分断 連続 反復 変化
吸い込まれるように、いつまでも見てしまう。
吉田の声がなければ、ただただ時計を眺めて昼休憩を終えていたかもしれない。
物心ついた頃から、周りから、何を考えてるかわからないと言われてきた。
僕だってわからない。これじゃいけないのか?
実際、他の人は何を考えてるんだ?
吉田は例外だ。考えてることをだだ流ししてる。
吉田は勝手に喋って、僕を責めないから、一緒にいて楽だ。
8時だ、もう出なくちゃ遅刻する。
(なのに、何故か)
休みでのんびりごはん中の父に話しかける。
おとーさん、おしょうゆかけすぎてるよー
(あれあれ?場面は変わって)
階段を上がった二階にいる。
体操服が見つからない、
学校行かなきゃいけないのに、
自転車の鍵が見つからない、
(なんで体操服がいる設定?
なんで探し物が変わってる?)
もう8時10分、間に合わない。
自転車で行けば間に合うさ!
(自転車通学禁止なのにどこに置くつもりだ?)
あれ、もう9時?
学校始まってる?
いや、まだ間に合う。急げー
(遅刻してるって)
目が覚める。
学校なんて、何十年も前に卒業したのに
未だにこんな夢を見て
そんな朝はドキドキして目覚める。
今日もモンスターに捕まること3時間。
そうですね、ごもっともです
申し訳ありません
ご意見ありがとうございます、
でもご要望にはお答えできなくて、
ええ、本当に申し訳ないです
しっかり検討させていただきます
はい、ありがとうございます
一方的にわーわーぎゃーぎゃー
そもそも間違った連絡先を書いたのはあんただろ
こっちはあんたの愚痴聞き屋じゃないのよ
あんなに怒鳴られたら
全私を否定された気分になってくる
どうか、あいつにバチが当たりますように…
あーあ、本気で転職しようかなあ
でも何の資格もないのにどこに転職?
鬱々と考えながらいつものスーパーに立ち寄る。
ふとワインが目に入った。
ニュージーランド産のソーヴィニヨン・ブラン
そうだ、今日はワインディナーにしよう
瑞々しい野菜で作ったサラダには
実家から届いたレモンで作ったドレッシングを
揚げ焼きにしたナスにナンプラーと酢を少々かけ
パクチーで飾り付けてもう一品
牡蠣は合うのかな?
まあいいや、買っちゃえ
それから鶏肉も
ハーブを乗せて焼いてワインのお供に
たまには奮発したっていいじゃないか
足取り軽く、帰路を急ぐ。
静かな世界。
過ぎる生き物は僅かで
光が届かない暗い棲家。
光を浴びに行くときは気をつけて。
ゆっくりゆっくり向かわないと破裂してしまう。
慎重に慎重に。
そうすれば何があっても大丈夫。