夏野

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7/6/2024, 2:54:38 PM

友だちの思い出

どうにもならない苛立ちを、深く吸い込む。
煙草の独特の匂いを感じなから、身体の中の空気を全部吐き出すみたいに口から煙が出ていく。

また、タバコくさいとか言われるかもしれない。
短くなった1本目を携帯灰皿に入れて、またもう1本取り出した。

我が家ほど家庭環境がよく分からない家はないと思う。
愛に飢えている母と、自由に生きる3人目の父親と、わたしを含めた5人の子供。

わたしが最初の子供で、1番目の父親との子供。
わたしかわ5歳の頃、離婚した。理由は知らない。

2番目の父も優しかった。2番目の父の連れ子1人と、2番目の父と母の間の子供が1人。
わたしが10歳の頃、運送業をしていた父は事故死した。
母の嘆きは凄かった。初めての葬儀だった。何も知らないまま、あっという間に通り過ぎた。

3番目の今の父はバイヤーと言うらしい。色んな商品を、あちこちに買いつけに行くのが仕事だという。
3番目の父と母の間に2人子供が出来た。わたしは16歳の時に末っ子が生まれた。

……末っ子は、わたしの事を母親だと思っている節がある。
母は最後の子供を産んだ時点で、わたしももう高校生だからと、この子は任せる、と言った。
他の子供たちもわたしは面倒を見てきたから、子育ては一通り知っているし、その頃には家事もほとんどで出来るようになっていた。

父が海外出張で家にあまり帰ってこないようになると、母は夜で歩くようになった。そしてわたしも高校生なのにバイトも出来なくて遊びにも行けない。
友達とは学校で会う以外に子供たちの面倒を見無くてはならなくなった。

どうしてわたしだけ、と思うと涙が出た。
学校で1人泣いてたら、見知らぬ先輩に無表情でタバコを渡された。
よく分からないまま吸って、思い切りむせ込んで更に泣けた。何してるのかよく分からなくて。

「これでお前も不良の仲間入りだな」

ニヤッと笑った初対面の先輩に、今のわたしのどうしようも無い現実を話していた。泣きながら。そして、何がどうなったか連絡先を交換していて、何故かその先輩が家にやってくるようになった。

「子供、好きなんだよね」

と綺麗に笑って子供たちの面倒を一緒に見てくれた。
どうして、とか聞いたら複雑そうな顔で先輩は答えた。

「あー……。その、引かないで欲しいんだけど、わたしは女が好きなんだよ。いわゆる、レズってやつ」

レズ。レズビアン。知っていたが、本当にいるとは知らなかった。

「泣いてるあんたがどーしても気になったから、さあんたの話聞いて、わたし、子供も好きだし、思いっきりつけ込んだんだよ」

「先輩が、わたしのこと、好き?」
「うん。あんたとヤリたいくらいには、好き」

ヤリたい。
……脳裏にどうやって、と浮かんだのは無視した。

「わたしも先輩好きですよ。その、普通の好き、ですけど」

まぁそうだよね、と先輩も納得した。

あれよあれよと言うままに、何故か特別な関係になってしまった。
それでもこの先輩がわたしのどうしようもない人生の中で唯一友達でもあり、わたしの唯一特別な人。

先輩が傍にいない時はタバコに火をつける。
大好きな先輩の持つにおいだから。

7/6/2024, 6:30:01 AM

星空

肉屋は肉を売る。
魚屋は魚を売る。
そして、夢屋は夢を売る。


綺麗な小瓶の並ぶ店内。小瓶の中身は可愛らしいピンク色の液体から、キラキララメラメしているような液体まであらゆる種類がある。
寝る前に飲めば対応した夢が見られる、魔法みたいな健康食品。魔法みたいだけど、科学的根拠に基づいて作られた、夢薬の分類。

寝ている間、夢を見る人の方が優れている。
夢を見る人いない人の違いの研究結果が発表されて50年。自発的に夢を見る人は少ないが、夢薬を使えば夢を見れる。それも望んだ夢が。発売当時は胡散臭いといわれ続けたこの薬達も、発売から45年たった今では日常の必需品なのだ。

「やっぱり高いなぁ」
「それ、映画のやつじゃん。映画を夢で体験出来るやつは凄いけど、夢は違うのがいいなあ」
「あんたは何買うの?」
「これ」

黒い液体に、キラキラが沢山入っている小瓶を見せる。
飲みにくそうな見た目に反して、甘くて美味しい。

「この前も買ってなかったっけ?」
「この夢が好きなんだよ」
「ふーん。あ、最新作出てる。わたし、こっちにしようっと」

彼女は水色の小瓶を取る。

「学生の青春? なにそれ、どんな夢」
「青春って、なんだろうね? 楽しみだなぁ、今夜試してみるよ」
「明日学校で教えてね」

家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って。
それから、くつろぐ姿勢で今日買った夢薬の小瓶を眺める。綺麗。
そしてグイッと飲み干す。ほのかな甘みと、睡魔を感じる。
静かに横になり目を閉じれば、直ぐに落ちた。

一昔前は眠るのに薬を使う人はいなかったと言うから不思議だ。夢薬を飲めばすんなりと夢の中に入れるというのに。

目を開けるとそこは既に夢の中だった。
上下左右、どこを見ても夜空。
満点の星空が投影される、プラネタリウム的な夢薬。

プラネタリウムだと天井を見るだけだが、夢なら自分も自由に動けるし、足元も星空に見える。
自分が宇宙空間にいるような感覚。
何も考えたくない時、この夢を見たいと思う。


目覚めるまでの数時間、
わたしはじっと夢の星空を眺め続けた。

7/5/2024, 2:01:29 AM

神様だけが知っている

心が動かなくなった。
別に困らなかったから、放っておいた。
そしたら、色んなことがどうでも良くなった。

赤く燃える空を恍惚と見入っていた。
この世界にある色の中で最も綺麗。
邪魔をしてくる奴らがいて殴って蹴ったら、気付いたら殴って蹴り返されて、そして地面に押し付けられていた。視界が地面で覆い尽くされたからふざけんな、と騒いだら、両手は拘束されてたし、自分を拘束した奴が警察官であったことにようやく気付いた。

冷たい無機質な部屋に入れられて無理やり椅子へと座らされる。冷たい。
前に座るのは日焼けしたガタイのいい男。

「なぜ放火などした」

何やら話しかけられているのは分かったが、耳に入ってこないので、さっき見た光景を思い返していた。
思い出には雑音が入らなくてイイ。

初めは小さな火が、色んなものを燃やしてだんだん大きくなった。建物全体を燃やして、暖かくて、黒煙と炎よ赤のコントラストが最高に綺麗だった。

目の前の男がイラついているのは分かった。
彼の言葉はどうにも入ってこない。

もう、心は壊れる。
いつから壊れてるかなんて自分でも分からない。
まともになれないのなら、壊れていくしかない。

……あの炎、綺麗だったな。

雑音は入らない。
もう思い出の中で再生出来ればいいやと、そう思う。


︎✦︎

俺は疲れている。
頭のおかしい犯罪者って存在するらしい。
こちらの話を聞いているのか聞いてないのか、視線を一点に向けて、石のように固まっている。
薬中のように見えるが検査では何も出なかった。
素で頭が狂ってるとしか思えない。

こちらが話し掛けづけるのにも飽きた頃、何も語ろうとしない放火犯はとうとう頭がイカれたらしい。
気味の悪い笑みを浮かべたと思えば恍惚とした表情になった。

捉えた男は身分証を持っていなかった。というか、ライター以外持ってなかった。
防犯カメラを追って男の家を探しているが、大変なのだ。
せめて名前くらい聞かないとなぁ、と刑事は反応しなあい男に声をかけ続けた。

7/2/2024, 2:59:27 PM

日差し

眩しい太陽に高い湿度。毎年のことながら暑さにやられつつ、今日は外出出来ないなと思う。
最高気温41度。
祖父母の家のお風呂のお湯の温度くらいは暑い。
日差しも強く、あゆるものが日焼けしそうだからカーテンすら開けられない。

明日も暑いんだろうなぁ。

だから、わたしは明日もきっと外出しない。

6/27/2024, 7:33:22 AM

君と最後に会った日

何か考えていたわけじゃないけど、
本当に、何も考えてなかった。

不用意に言葉が出て、
よくよく考えると失礼な言葉だったけど。

最後だと思わなかったから言ってしまった。
けど、最後だと分かってたら、
わたしは何を伝えたのだろう。

考えてもわからないことを時々考える。

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