夏野

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友だちの思い出

どうにもならない苛立ちを、深く吸い込む。
煙草の独特の匂いを感じなから、身体の中の空気を全部吐き出すみたいに口から煙が出ていく。

また、タバコくさいとか言われるかもしれない。
短くなった1本目を携帯灰皿に入れて、またもう1本取り出した。

我が家ほど家庭環境がよく分からない家はないと思う。
愛に飢えている母と、自由に生きる3人目の父親と、わたしを含めた5人の子供。

わたしが最初の子供で、1番目の父親との子供。
わたしかわ5歳の頃、離婚した。理由は知らない。

2番目の父も優しかった。2番目の父の連れ子1人と、2番目の父と母の間の子供が1人。
わたしが10歳の頃、運送業をしていた父は事故死した。
母の嘆きは凄かった。初めての葬儀だった。何も知らないまま、あっという間に通り過ぎた。

3番目の今の父はバイヤーと言うらしい。色んな商品を、あちこちに買いつけに行くのが仕事だという。
3番目の父と母の間に2人子供が出来た。わたしは16歳の時に末っ子が生まれた。

……末っ子は、わたしの事を母親だと思っている節がある。
母は最後の子供を産んだ時点で、わたしももう高校生だからと、この子は任せる、と言った。
他の子供たちもわたしは面倒を見てきたから、子育ては一通り知っているし、その頃には家事もほとんどで出来るようになっていた。

父が海外出張で家にあまり帰ってこないようになると、母は夜で歩くようになった。そしてわたしも高校生なのにバイトも出来なくて遊びにも行けない。
友達とは学校で会う以外に子供たちの面倒を見無くてはならなくなった。

どうしてわたしだけ、と思うと涙が出た。
学校で1人泣いてたら、見知らぬ先輩に無表情でタバコを渡された。
よく分からないまま吸って、思い切りむせ込んで更に泣けた。何してるのかよく分からなくて。

「これでお前も不良の仲間入りだな」

ニヤッと笑った初対面の先輩に、今のわたしのどうしようも無い現実を話していた。泣きながら。そして、何がどうなったか連絡先を交換していて、何故かその先輩が家にやってくるようになった。

「子供、好きなんだよね」

と綺麗に笑って子供たちの面倒を一緒に見てくれた。
どうして、とか聞いたら複雑そうな顔で先輩は答えた。

「あー……。その、引かないで欲しいんだけど、わたしは女が好きなんだよ。いわゆる、レズってやつ」

レズ。レズビアン。知っていたが、本当にいるとは知らなかった。

「泣いてるあんたがどーしても気になったから、さあんたの話聞いて、わたし、子供も好きだし、思いっきりつけ込んだんだよ」

「先輩が、わたしのこと、好き?」
「うん。あんたとヤリたいくらいには、好き」

ヤリたい。
……脳裏にどうやって、と浮かんだのは無視した。

「わたしも先輩好きですよ。その、普通の好き、ですけど」

まぁそうだよね、と先輩も納得した。

あれよあれよと言うままに、何故か特別な関係になってしまった。
それでもこの先輩がわたしのどうしようもない人生の中で唯一友達でもあり、わたしの唯一特別な人。

先輩が傍にいない時はタバコに火をつける。
大好きな先輩の持つにおいだから。

7/6/2024, 2:54:38 PM