「傘の中の秘密」 #21
まだ、ただの知り合いだった頃の話。
急な雨で、傘を持っていなかった君が困って立ち尽くしてたから、思わず声をかけちゃった。
「もし良ければ、一緒に駐輪場までどう?」
そんなに話したこともなかったから、君はびっくりして困惑してた。
でも少し逡巡してから「うん。ありがとう」と返してくれた。
ぎこちない空気の中、他愛のない世間話をする。
一瞬だけ、君と私の手が触れ合う。
偶然に過ぎなかったけれど、私の胸がとくりと控えめな音を立てる。
あの時に恋に落ちたのかもしれないことは、私と1本の折りたたみ傘だけが知っている小さな秘密。
「雨上がり」 #20
今、あなたに雨が降っている。
とてもとても悲しいことがあって、それがあなたに雨を降らせている。
雨は嫌いじゃない。
でも、晴れの方が好き。
そして、虹はもっと好き。
だから、すぐにじゃなくていいから泣き止んで。
雨もいいけど、あなたには青空の方が似合うから。
あの太陽みたいな笑顔で笑ってみせて。
「勝ち負けなんて」 #19
人に勝ち負けはないなんて分かりきっている。
人に優劣をつけるべきではない、ということは分かっている。
でも、1番になりたい。
あの子に1番好かれたい。あの子に1番愛されたい。あの子に1番慕われたい。あの子の1番でありたい。
みんなからあの子を勝ち取りたい。
オンリーワンでは物足りない。ナンバーワンの存在でありたいのだ。
「まだ続く物語」 #18
1日、1週間、1ヶ月、5ヶ月―――
あなたをながめて
あなたの名前を呼んで
あなたと手を繋いで
あなたの隣に座って
あなたと寝落ち通話して
あなたを抱きしめて
あなたと話さなくなって
あなたから目を逸らして
あなたで泣いて
あなたに当たって
あなたを悲しませて
あなたが好きで。
あなたと紡いできた物語。もうすぐ半年が来る。
半年、一年、五年、十年―――
まだ続く物語。
「渡り鳥」 #17
あなたはまるで渡り鳥。
寂しい季節には話しに来るのに、そうじゃないときには見向きもしない。
四季みたいに、あなたの心情も定期的に変わるなら私だって少しは安心できただろうか。
いっそあなたの心が、ずっと寂しい季節のままならいいのに。
なんて、あなたの不幸を願っているみたい。
あなたの幸せに、私を含めてほしいだけなのだ。