「傘の中の秘密」 #21
まだ、ただの知り合いだった頃の話。
急な雨で、傘を持っていなかったあなたが困って立ち尽くしてたから、思わず声をかけちゃった。
「もし良ければ、一緒に駐輪場までどう?」
そんなに話したこともなかったから、あなたはびっくりして困惑してた。
でも少し逡巡してから「うん。ありがとう」と返してくれた。
ぎこちない空気の中、他愛のない世間話をする。
一瞬だけ、あなたと私の手が触れ合う。
偶然に過ぎなかったけれど、私の胸がとくりと控えめな音を立てる。
あの時に恋に落ちたのかもしれないことは、私と1本の折りたたみ傘だけが知っている小さな秘密。
6/2/2025, 10:20:54 AM