私を離してくれないの。
あまりにも熱烈でね、いつも朝から困っているわ。
毎晩一緒に過ごしているのに。
でもそうやって甘えられちゃうと私も弱くて。
いけないとは分かっているんだけどね。
可哀想って思っちゃうの。
私がいなきゃダメなんだって。
だからやっぱり、離れられないの。
私って都合のいい女すぎるよね。
「え、待って。なんの話?」
「冬は恋しいよねって話」
「そうだよね、恋しいって話だよね。
布団が」
「うふふ」
「うふふじゃねえよ」
「冬になると布団が私を何度も引き止めるの」
「二度寝を繰り返すってこと?」
「世間ではそうとも言うかしら」
「そうとしか言わないね」
「もう毎朝よ。布団がね、私を離さないのは」
「いや逆だろ。アンタが布団から出られないんだよ。……ってもしかして、今日遅刻した理由って」
「……うふふ」
「うふふじゃねえよ!」
『冬になったら』
貴方から離れた私を二度と思い出さないでください
私は貴方の幸せを毎日祈りますが
貴方は私に関して祈りを捧げないでください
貴方はきっと素敵な人に出会って幸せになるでしょう
私は貴方以上に素敵な人などいないと知っているので
貴方と以外で幸せにはならないでしょう
私は最初からいなかったものだとして
これからの人生を歩んでください
貴方を悲しませたくありません
身勝手な私の最期のお願いです
『はなればなれ』
「可愛い」って言うと必ず鳴いて返事する我が家の猫
子猫の頃から今まで変わらず返事してくれるんだけど
今の可愛いはテレビに出た推しに向かってなんだよね
きっとそう教えたら拗ねてしばらく無視されちゃうから
ふてぶてしく歩いて来る君を笑顔で迎え入れるしかない
『子猫』
ひんやりとした冷たい空気
大きく深呼吸をすればスッキリする
澄み切った 綺麗な空気
北からの風に吹かれて両腕をさする
そろそろストールくらい出してもいいかも
『秋風』
初対面でコーヒーをぶちまけた貴方へ
私がまさか、ドジでマヌケなアンポンタンを絵に描いたような貴方と結婚するなんて思わなかった。
せっかちで、騒がしくて、慌ただしくて。
とにかく、貴方といる時間は気が休まらなかった。
子供たちの成人式の時、貴方のドジが遺伝しなくて心の底から良かったと安堵したの。きっと貴方のドジが移っていたら、あんなに可愛いお嫁さんと孫ちゃんとは出会えてなかっただろうから。
貴方を見送ってから長い時間が経ったと思ったの。スマホで確認したらまだ四十九日も過ぎてない。
庭付き一軒家なんて今どき流行ってないのに、見栄を張って買ってしまうんじゃなかった。
この家、一人で住むには広すぎるし静かすぎる。
貴方のような賑やかなドジがいないと、お化け屋敷みたいに怖いの。……まだ、お化け屋敷の方がお化けがたくさんいて賑やかだったわ。
私の人生、貴方との暮らしが半分以上占めているの。
今更静かに余生を送るなんて都合のいい切り替えなんてできやしない。貴方がいなかった時の生活なんて、遠い記憶の彼方だから。
貴方のドジを求めているだなんて、私の頭もとうとうおかしくなったんだわ。
貴方には悪いけど、きっとあの世へ行ってもドジしているのでしょう。
くれぐれも神様閻魔様にはご迷惑をお掛けしないよう、細心の注意を払ってちょうだい。
そして、また私に出会ったときは。
何も落とさず、何もこぼさず、何にも躓かず。
普通にお会いしましょう。
『また会いましょう』