電柱にぶつかるかもしれないし
屋根が飛んでくるかもしれないし
水やりの流れ弾喰らうかもしれないし
バナナの皮を踏んで転ぶかもしれないし
犬に噛まれるかもしれないし
猫に引っかかれるかもしれないし
アリを踏んじゃうかもしれないし
飛び出てきたボールを蹴っちゃうかもしれないし
クラクション鳴らされるかもしれないし
踏切に侵入しちゃうかもしれないし
おばあさんの助けに気がつけないかもしれないし
まぁ、不審者と目が合わないからいっか
『空を見上げて心に浮かんだこと』
彼はポケットからベルベットの小箱を取り出した。
彼女は目尻に涙を滲ませて笑った。
ヒーローは満身創痍にも関わらず武器を構えた。
ヴィランは支配しようと黒い渦を空に放った。
君は画面越しに笑って卒業の言葉を述べた。
僕はペンライトを握りながら号泣した。
『終わりにしよう』
AIとかデジタルとか色々科学は進んでいるので
きっとそのうちそう言ったものとも助け合って
生きて行くことになるんだろうな
早くそうならないかな
そしたら寝落ちしたら
文章全部消えることないんだろうな
おっかしーいなー?
OK押したはずなのにな?
『手を取り合って』
私が幼い頃、母にはよくいい子だねと言われた。
「巻乃ちゃんはいい子だね。勉強も運動も一番なんてすごいじゃない」
母にそう言われるたびに嬉しかった。私はきっと母の自慢な娘だと思った。
でもそのセリフには必ず続きがある。
「隆明もアンタみたいにもっと勉強してほしいんだけど」
ため息混じりの母の言葉が後味悪く残る。歳の離れた兄より優秀だと褒められていると、そう思いたかった。でも拭えない違和感が、私にまとわりつく。何かがおかしいと。
気づいた時に行動に起こせばよかった。あれから月日が経って私が高校生になると、兄と私の立場は完全に逆転した。
兄は高校卒業後、就職して工場で働いていた。毎日朝早くから夜遅くまで家を空けて仕事する姿が、私から見ても少しかわいそうに思えた。私はちゃんと勉強して、大学進学して、良いところに就職するんだと決めた。
でも、母は違った。
汗水垂らして働く息子が不憫で仕方なくて、これまで以上に世話するようになった。お昼ご飯が足りないと言われれば弁当を作り、疲れて帰ってくる兄に好物のおかずを食卓に並べた。
洗濯や部屋の掃除も母がやってあげていた。兄が休みの日に手伝おうものならすごい剣幕で怒った。そしてその怒りが、勉強ばかりで働かない私に向いた。
私は大学受験の勉強をしながら母の駒として、家事を手伝った。次第に感謝の言葉もなく横柄な態度を取る兄が腹立たしく、憎らしかった。母は全然気にした様子もなく、ただ私には頻繁に食品の買い出しや掃除、洗濯を任せてきた。
「アンタはお兄ちゃんと違って涼しい教室で先生の話をフンフン聞いていればいいんだから。こんな炎天下の中で肉体労働しなきゃいけないお兄ちゃんがどれだけ大変だと思っているの」
そんなの、勉強を頑張らなかった兄の自業自得ではないか。
喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。まだ、私は親(スポンサー)がいないと生活できない子どもだ。たとえ腹が立っても反抗してはいけない。
苛立ちを抑えるように奥歯をグッと噛み締める。ギチギチ鳴る口の奥で血の味がした。
私は勉強の甲斐あって、地方の国立大学に合格した。第一志望だったこともあり、私は部屋で飛び跳ねて喜んだ。これでこの家から出ることができる。大学は女子寮のあるところを選んだのだ。
そうだ、合格の報告をしなきゃ。
私は部屋から出てリビングへ向かった。リビングのドアを開けると、ワンピースを身に纏って着飾った母と、スーツ姿の父がいた。父は仕事が忙しくて私が寝ている時間に帰ってきて出かけているから、ちゃんと顔を合わせるのは久々だった。
「アンタ何、どうしたの」
ぶっきらぼうに母が言う。
「あの、合格しました。第一志望の大学に」
さっきまでの嬉しかった気分が一気に萎んでいった。母と目を合わせることができなくて、ずっと年季の入ったフローリングを見ていた。
母はフーンと相槌を打つだけだ。父は基本、何も言ってくれないから期待していない。
「まだアンタにお金掛かるのね。お兄ちゃんはね、結婚するのよ」
え、と私は驚いた。思わず顔を上げて母を見ると、母は口元を歪ませて笑っていた。鋭い目つきをしているから、純粋に笑って見えない。
「お兄ちゃんはもう働いて、結婚するってのに。女のくせにアンタはまだ勉強するの? まあ昔からそれだけが取り柄だったものね。それに志望していた大学って東北にある寮付きの国立大だったかしら。聞いたことない名前の大学だからきっと就職や結婚で苦労するわね」
じゃあお母さんたち、お兄ちゃんのお相手の方々と顔合わせしてくるから。
両親はそのまま家を出た。私は呆然と佇んだままだった。バタンと玄関のドアが閉まる音がして、硬直していた体が動いた。自分の部屋に慌てて飛び込んだ。視界に入った机の棚に差してある模試の結果を引き抜いて、破いた。模試は何回も受けたからまだまだたくさん取っておいてあるけど、それも全部破いた。次は受験勉強に使った問題集が目に入った。それも破こうと思ったけど、手に取って思いとどまった。
端から歪んで破れ落ちそうなジャケット。同じページばかり開いていたらついてしまった紙の反り癖。数え切れないほどの付箋の量。飲み物をこぼしてしまった跡。
見つけてしまった。私の将来への希望の痕跡を。
私は両手で問題集を持ったまま泣き崩れた。母に散々な態度を取られても諦めずに勉強を続けた毎日を思い出しながら、涙を流した。
こんなはずじゃなかった。
また昔みたいに褒めてほしかった。認めてほしかった。兄もすごいけど私もすごいのだと肯定してほしかった。ただそれだけだったのに。
涙が枯れるまで私は同じ態勢でいた。泣ききったら、今度はこんなはずにならないために頑張らなきゃと思った。
『優越感、劣等感』
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私事ですがこちらの投稿で139作品目です。
「ここから反撃開始だ」
『これまでずっと』