駅のホームから見えた、急勾配の階段。その先にどんな景色が待っているのか気になって、途中で電車を降りた。暖かな日差しとひんやりとした空気が、普段歩かない私を奮い立たせた。
日頃の運動不足が祟って、息は絶え絶え。足はガクガク。立ってることすら辛くなってきた。それでも一段ずつ踏みしめる。
あと少し、もう少し。
言い聞かせること十数段、ようやく頂上に着いた。
そこは、公園のような開けた場所でもなく、住宅街のような混み込みした場所でもなかった。ただ、道が続いているだけだった。
なんだ、せっかく登ったのに。
すごく残念な気持ちになった。道の先にはいくつかの住居が薄らと見えるから、この階段はそこに住まう人たちの近道でしかなかったのだ。
先程までやる気に満ちていた私はどこかにいってしまった。疲れた。足が痛い。帰ろう。
辺りを見渡したが一本道しかないようだから、来た道を帰るしかない。急勾配の階段、絶対転げ落ちるに違いないから慎重に降りなければ。
後ろを振り返った。その時、青空と共に見えたのは、どこまでも続く街並みだった。
首都圏でも都心から離れたこの土地は、高層ビルやマンションは滅多にない。遊ぶ場所も隣町まで行かないとないから、目の前に広がっているのは、ただの住宅街でしかない。さらに遠くの方には、山が連なっていた。
何の特別もない。なんでもない。ただの街。
きっと山の方まで、私の知らない街が広がっている。山を越えれば尚更のこと。
私は生涯でその街を訪れることはあるのだろうか。
目の前に広がる街だけでなく、地図を広げてみる街にも。
まだ知らない街がたくさんあるのだと、空を見上げて思った。
『遠くの街へ』
そんなつもりじゃなかったの。
ただちょっと、起き上がる前にSNSを開いただけ。
そしたら気になる投稿があって、それを読んだらスクロールして、また気になる投稿を見つけていただけなの。
結局内容は覚えてないんだけど、ほら、ハート押したからちゃんと後から探せるし。
まぁ、そんなことしてたら午前中潰れて朝とお昼のご飯が一緒になっちゃうの。
ご飯食べながら考えたよ、さすがに掃除はちゃんとしなきゃって。
でも今ご飯食べたばっかりだし、とか思って食休みがてらスマホ持っちゃったわけ。
好きなアイドルの動画とか、クリエイターのネタ動画とか。
たった一・二分のあんな短い動画なんてすぐ終わるじゃん。
次の動画見たら掃除しようって思ってスクロールするの。
そしたら、もう、日が暮れているわけよ。
何? 何が起こったの?
もう夕ご飯食べてお風呂入ったら一日終わっちゃうじゃない。
結局その日も掃除すら諦めるしかなくなるってわけ。
私の部屋の惨状には、こういう背景が隠れているの。
ちゃんと想像力を膨らませてほしい。
「手を動かせ。ちゃんと捨てろ。そして拭け。いい加減自分の面倒くさがりな性格を受け入れろ。始めたらすぐ終わるんだから」
おっしゃる通りです。
『現実逃避』
君は今も変わらず苦しんでいたんだね。
気づけなかったよ、ごめんなさい。
『君は今』