139

Open App

 駅のホームから見えた、急勾配の階段。その先にどんな景色が待っているのか気になって、途中で電車を降りた。暖かな日差しとひんやりとした空気が、普段歩かない私を奮い立たせた。
 日頃の運動不足が祟って、息は絶え絶え。足はガクガク。立ってることすら辛くなってきた。それでも一段ずつ踏みしめる。

 あと少し、もう少し。

 言い聞かせること十数段、ようやく頂上に着いた。
 そこは、公園のような開けた場所でもなく、住宅街のような混み込みした場所でもなかった。ただ、道が続いているだけだった。

 なんだ、せっかく登ったのに。

 すごく残念な気持ちになった。道の先にはいくつかの住居が薄らと見えるから、この階段はそこに住まう人たちの近道でしかなかったのだ。
 先程までやる気に満ちていた私はどこかにいってしまった。疲れた。足が痛い。帰ろう。
 辺りを見渡したが一本道しかないようだから、来た道を帰るしかない。急勾配の階段、絶対転げ落ちるに違いないから慎重に降りなければ。

 後ろを振り返った。その時、青空と共に見えたのは、どこまでも続く街並みだった。

 首都圏でも都心から離れたこの土地は、高層ビルやマンションは滅多にない。遊ぶ場所も隣町まで行かないとないから、目の前に広がっているのは、ただの住宅街でしかない。さらに遠くの方には、山が連なっていた。
 何の特別もない。なんでもない。ただの街。
 きっと山の方まで、私の知らない街が広がっている。山を越えれば尚更のこと。

 私は生涯でその街を訪れることはあるのだろうか。
 目の前に広がる街だけでなく、地図を広げてみる街にも。

 まだ知らない街がたくさんあるのだと、空を見上げて思った。



『遠くの街へ』

2/28/2024, 3:29:24 PM