そんじゅ

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5/10/2023, 10:15:03 AM

グラスの中で、ストローの触れたところからいびつに溶けていく氷のようだ。

思い出は何度も繰り返し触れてなぞるほど、あっさり擦り減っていってしまう。キラキラした貴石のようだった記憶はいつの間にか、角を失いどこにでも落ちている小石に変わってしまう。

あれは何かとても大切な瞬間だったのだと、ただそんな感覚だけは今もあるのに。あの日の自分がなぜそう感じたのかは、もう何もわからない。

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忘れられない、いつまでも。

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所感:
覚えているけれど、もはや全てが遠い。
そんな感覚を悲しみもなく受け入れている、その事実が少し寂しいとは思うのです。

5/7/2023, 7:07:20 PM

白いシャツの真っ直ぐな背中。
肩甲骨の影を風が薄く揺らす。
あるはずもない天使の翼の幻。

無いものを見ようとするのは、
無いと分かっているからこそ。

もうあの背について行かない。

どこまでも追っても追っても、
命の終わりまで追いかけても、
振り向かれはしないのだから。

この気持ちが私の心のなかに
ひととき確かにあったのだと
私一人でずっと覚えていよう。

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初恋の日

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所感:
初恋といえば島崎藤村。
まだあげ初めし前髪の…ですね。

5/7/2023, 10:36:39 AM

何ひとつ余すことなく、なんぴとたりと取り残されることなく、この世の全てがつつがなく穏やかに終わりを迎えられますように。

どうか。
どうかどうか、私も。

明日世界と一緒に消えてしまえますように。

何物をも迎え入れずに生きてきた私は、果たしてこの世に居ることを誰に認められているというのでしょう。

ああ、まさか全てが消え去ったあとにただ一人残されて、自分がこの世界の構成員ではなかったなんて今さら知らされたくなどないのです。

あるいは。

この空も、この街も、道行く人々も貴方も。

全部ぜんぶ私の生きる世界ではなかったのなら、そう、皆、どうぞご無事で。変わりない日を生き延びて。
何もかも明日になればわかること。


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明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。

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所感:
理詰めで考えると願いなどなかったのだけれど、そこからもう一段考えた結果がこれ。
結局、何かしら、希望が欲しいのだ。

2/20/2023, 12:02:13 PM

同情、相槌、さしすせそ
「さぞ辛かっただろうね」
「仕方ないこともあるさ」
「好きに言わせておきなよ」
「正解なんて人それぞれ」
「それは大変だったね」

刺される、相槌、さしすせそ
「先にこっちの話、いい?」
「しらないよ」
「済んだ話でしょ」
「責任感ないね」
「それで?」

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Sympathy

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所感:
どうしたって分かり合えないものだからこそ、人は他人の気持ちを想像し続けて生きていく。それでいいと思うし、そうするしかないのだ。

12/13/2022, 8:23:16 AM

「恋心と心拍数は連動しててもいいよね?だとか人体の構造を雑に決めた神を必ず探し出し息の根止めてやる」

よく分かんない理屈だけど、そんな決心をしたのは私の曾々々々々祖父、つまり七代前のご先祖様だ。
名前は弥五郎。レトロだよね。

我が家に伝わる話では、その(略)じいちゃんと彼の嫁さん、(つまり私の曾(略)祖母)は二人相思相愛の仲だった。

毎朝毎晩毎分毎秒、じいちゃんの顔を見る度にときめいてやたらドキドキしていたばあちゃんの心臓はすっかり弱ってしまい、子供を産んですぐに心臓が止まって死んでしまったのだそうだ。

で、恋女房を不意に亡くしたじいちゃんは、その悲しみを怒りへまるっと転換して「神殺し」なんて大それた計画をぶち上げて……本当に神の国まで行ったって。

神の首根っこ引っ掴んで剣を突き立てたまでは凄い。まるで物語の主人公だよ。でもさ、そう簡単に死なないしやられた分だけやり返すのが神様って奴だよね。

七代前のとんだご先祖様のおかげでうちの一族は、どれだけ好きな相手にも一切心がときめかないなんて、わりと通好みな感じの呪いを受けてしまったんだ。

ねえ。

好き。
心の底から大好き。
愛してる。

やっぱり伝わりにくいかな。
何言っても、何言われても、顔色ひとつ変わらない無愛想だけど、貴方のことを思っているのは本当だよ。


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「心と心」

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所感:
ドキドキしているのを好きだと勘違いするのが、吊り橋効果でしたっけ。

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