「青春ごっこ、したことあるの」
そっと打明け話をしてみたらあなたは予想通り少し戸惑った表情をした。これだけで終わる話でもないから、気にせず言葉を続ける。
学校帰りに家の前を通り過ぎてそのままずっと夕陽へ向かって走ったの。何だか突然、若者らしいことをしてみたくなって。でもね、ごっこ遊びだから、制限時間は山の端に太陽が隠れてしまうまで。
真っ赤な夕焼けは眩しくて、温かくて、追いかけているだけでとてもワクワクしたよ。どこまでも行けるような気がしたし、どこへでも行ける自信だってあった。けど暗くなった頃辿り着いたのは結局、隣町の端っこでさ。
少しがっかりもしたけれど、これは私の足が遅いんじゃなくてこの大地が遥かに広いんだと、気分は却って清々してたのが、今思うとそれなりに青春感あるね。
「今も?今もここを出て何処かへ行ってしまいたくなったりするときがあるのかな」
ふと思い付いた顔で、けれど真面目な瞳で訊ねてくるあなたは何を心配しているんだろう。いつだって私はここに戻って来るし、むしろ何処かへ行くのなら……
「そのときは二人一緒にね」
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「放課後」
寒がりだからカーテンを冬物に付け替えるとき素材や丈の選択には散々こだわった。その甲斐あって、二月の朝でも窓越しの冷気が足元へ流れ込んでくることはない。快適な室内環境を得て満足していたのに。
「おはよう。今日は良い天気だよ」
口調だけは優しいけれど容赦なくカーテンを開け放つあなた。満面の笑顔で、人間は起き抜けに日光を浴びれば健康的に一日を過ごせるんだと言い切られたら、やめてほしいと言い出せなくなった。毎朝几帳面に生地のドレープを整える仕草はもはや何かの儀式のようだ。
真冬の鈍くかすかな陽光があなたのシルエットを縁取り淡く光らせているのを、布団にくるまったままぼんやり眺めている。これは、寒いけど、暖かい。
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「カーテン」