小谷津

Open App
10/13/2023, 8:35:23 AM

放課後の教室には今、一番会いたくなかった彼女が待っていた。
長くサラサラとした黒髪に、黒縁のメガネ、その奥に見える吊り上がった目尻。
「待ってた」
僕に投げかけられる鋭い言葉。
僕は悪くない、そのはずなのに。
だから昨日、僕はクラスメイトの女子たちと一緒に帰ったんだ。
「なんで……」
脳裏によぎるのは、違う学校の男子と親しげに笑っていた、大好きな彼女の後ろ姿。
僕は小さく呟く。
「なんで、僕ばっかり」


放課後

【逆さに読んでもok】

10/11/2023, 11:10:23 AM

閉め切ったカーテンを少し開いて、僕は窓際の床に直接腰を下ろす。
窓の向こうは白い霧に包まれており、冷えきった窓に顔を寄せると、僕の息で白く曇った。

こんなにも寒い日は、独りで居ると、とても落ち着く気がする。
世界が冷えていて、自分も冷えていて。
すべてがどうでもよくなるような、どうでもいいような。
苦しかったことも、全部許せる気がして。
けれど実際は、そんなことない。
劣等感も、罪悪感も、不安も不満も、痛みも。
すべて許せるわけがない……。

窓の向こう、霧の中で薄っすら街明かりが浮かんでいる。
いつか僕は許せるだろうか、僕自身のこの苦しみを。
僕より優れていた弟の存在を、その弟に意地悪してきた僕の罪を、弟がいなくなった後に残された、不甲斐ない家族である僕らを。
僕はぼんやりと浮かぶ街の明かりを、静かに見つめて思う。
まるで人魂のようだ。


カーテン

10/11/2023, 3:35:08 AM

遠い空を見上げて、なぜかわからないけれど、涙が溢れた。
どうしてだろう。
何もなかった、この感情に理由なんてもの、僕には。
だからこそうまく行かなかった。
僕ら二人を繋いだのは、あの日突然湧き上がってしまった感情だけだったんだ。
スマートフォンの画面には、大好きな人と並んで笑顔を見せる新郎の姿。
その後に届く、通知音。
「また、三人で遊びたいよ」
そりゃそうだろう、だって。
遠いあの夏の日を思い出し、僕は胸が締め付けられた。
三人で最後に遊んだのは、いつだったか……。


涙の理由

【逆さに読んでもok】