【胸の鼓動】
走る。走る。これが日課。一秒でも早いあの世界に行きたいから。いつも通りの日課をこなすと雨が降ってきた。
「あぁ良かった。いつもより少しだけ早い時間に走っておいて」
まだ心臓は早く鼓動をしているが濡れずにすんだという安堵で心は穏やかだった
【踊るように】
目の前で繰り広げされる殺戮。渦中の男は華麗なナイフ捌きで次々と現れる人間達を肉塊に変えていった。30秒後、ファンファーレ鳴り響く。
「Noob乙でーす」
チャットに書き込まれた余裕たっぷりの嘲り。数多の屍が消え去り、天からはきらびやかな紙吹雪が舞っていた。表彰台にてエモートを披露する男はこのゲームの頂点に君臨する男SAMnoodle。HNはふざけたものだが実力は本物。重火器がものを言わすこの場所にてネタ武器、縛り武器等といわれるナイフ一本だけで勝利をもぎ取って行くのだから。これだけの実力者だがメディアには一切姿を表さない謎の存在。まあ、ネットの存在をリアルに引き込むのはナンセンスだ。
「おっつおっつ。またどこかで会おうなNoob共」
そう言って彼はゲームから退出していった。生ける伝説、SAMnoodle。ライト勢でしかない僕でも同じチームとしてゲームが出来て、出会えて良かったと心から思った。
【時を告げる】
「アンタは生きろ」
目の前の仏頂面の男が言う。お前は刺客だろ?俺は裏社会の人間を殺っちまったんだ。
「あの組織はろくでもない。アンタは騙されて借金を負わされた被害者。殺した事実はあるが天秤に掛けるなら殺られたあのゴミよりアンタの方が価値がある。だから、生きろ」
面は厳ついのに優しいな、と思った。俺は一礼してその場を去った。
―
「面白い話をしましょう。三日前のターゲット。今日、ここから20㎞も離れた場所で見つかったんですって。どの話か分からない?借金取りの新米を殺めた40代の男性。貴方に排除を頼んだ方ですよ。報告書によればこの事務所から5㎞程度の場所で亡くなっている筈なんですが…。動く死体って存在したんですね」
相棒が眼鏡を拭きながら心底面白そうに語る。アイツ…逃げきれなかったのか。俺は拳を握った。
「どうかされました?私はファニーでオカルティックな話をしただけですよ。ウフフフ」
俺は何も言わない。仏頂面を貫く。相棒は眼鏡を掛けると微笑んだ。
「さて、今日もお仕事をしましょうか。いつも通り頼りにしていますからね。沢山、救済しましょう」
死を救済だと思っている相棒。バレているのならばもう既に消されててもおかしくない。だが、コイツは俺に抱き付いていつも通りに俺を愛でてくる。俺は動揺を隠して胸元にある相棒の頭を撫でた。少女にしか見えない相棒は嬉しそうに頬を胸に擦り付けるだけだった。
【貝殻】
ホラ貝を吹く音が聞こえる。祭りには欠かせないものなのだがこれが海という場所に生息する生き物の殻だという事をつい最近知った。あれは精巧に作られたものじゃないのか。自然界であんなものが作られるとは驚きだ。それとあれを楽器にしようなどとよく考えたな、と改めて思った。人間の発想力は凄まじいものだ。
【きらめき】
人間が一番輝いてる時ってさ、生き生きと働いてる時とか子供が生まれた時とかじゃなくてさ。死ぬ時が一番輝いてるよね。燃え尽きる前が一番明るいっていうじゃない。それさ。