【時を告げる】
「アンタは生きろ」
目の前の仏頂面の男が言う。お前は刺客だろ?俺は裏社会の人間を殺っちまったんだ。
「あの組織はろくでもない。アンタは騙されて借金を負わされた被害者。殺した事実はあるが天秤に掛けるなら殺られたあのゴミよりアンタの方が価値がある。だから、生きろ」
面は厳ついのに優しいな、と思った。俺は一礼してその場を去った。
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「面白い話をしましょう。三日前のターゲット。今日、ここから20㎞も離れた場所で見つかったんですって。どの話か分からない?借金取りの新米を殺めた40代の男性。貴方に排除を頼んだ方ですよ。報告書によればこの事務所から5㎞程度の場所で亡くなっている筈なんですが…。動く死体って存在したんですね」
相棒が眼鏡を拭きながら心底面白そうに語る。アイツ…逃げきれなかったのか。俺は拳を握った。
「どうかされました?私はファニーでオカルティックな話をしただけですよ。ウフフフ」
俺は何も言わない。仏頂面を貫く。相棒は眼鏡を掛けると微笑んだ。
「さて、今日もお仕事をしましょうか。いつも通り頼りにしていますからね。沢山、救済しましょう」
死を救済だと思っている相棒。バレているのならばもう既に消されててもおかしくない。だが、コイツは俺に抱き付いていつも通りに俺を愛でてくる。俺は動揺を隠して胸元にある相棒の頭を撫でた。少女にしか見えない相棒は嬉しそうに頬を胸に擦り付けるだけだった。
【貝殻】
ホラ貝を吹く音が聞こえる。祭りには欠かせないものなのだがこれが海という場所に生息する生き物の殻だという事をつい最近知った。あれは精巧に作られたものじゃないのか。自然界であんなものが作られるとは驚きだ。それとあれを楽器にしようなどとよく考えたな、と改めて思った。人間の発想力は凄まじいものだ。
【きらめき】
人間が一番輝いてる時ってさ、生き生きと働いてる時とか子供が生まれた時とかじゃなくてさ。死ぬ時が一番輝いてるよね。燃え尽きる前が一番明るいっていうじゃない。それさ。
【些細な事でも】
こういう事言いたくないんだけどもう限界だから言うね。お会計終わった後に店員さんの評価付けするの止めて。可愛かったとか好みの顔じゃないとか何様なの?あとは、立ってる時に足を組んで格好付けるとか。正直キモい。それと、メロンソーダの発音どうなってるの。メ!ロンソーダ
って。はぁ、くだらねぇ些細な事だろ?塵も積もれば山となる。そういう事よ。
【心の灯火】
「お疲れ様です」そう言って僕は会釈をして会社を後にする。上司からの叱咤、同僚の陰口に妬み、使えない後輩。あぁ、イライラする。人が殆どいない電車に揺られて、人気のない道を行く。疲労困憊の身体にはこんな当たり前の事すら辛い。だが、僕は一度も折れた事はない。何故なら大切な人がいるから。誰にも知られていない唯一の人。ね、僕だけの灯火ちゃん。怯えた目も素敵だよ