私の名前
凄く自然に、ごく当たり前というように
君は私の名前を呼んだ。
昨日までは苗字だったのに。
でも、バレてるよ。
君の頬が赤く染まっていること。
視線の先にはいつも、君がいる。
気がつけば目で追っている。
これが恋だと気づくのはまだ先の話。
「俺さ、実は大樹のこと好きなんよな。恋愛的に。」
私が片想いし続けていた和人は衝撃の発言をした。まさか自分の片思いがこんな形で幕切れをするなんて思ってもみなかった…
悲しみよりも驚きが勝った。
和人と大樹は部活もクラスも同じで、いつ見ても2人でいる。休み時間には2人でじゃれあったり、放課後の受験勉強だっていつも2人で机に向かっている。
確かに凄く仲のいい2人だなとは思っていたけれど。
和人はそんな行き場のない想いを抱えて生活してたなんて想像すらしてなかった。
そういえば先日、私、和人、大樹の3人で高校から帰っていると、目の前の公園でおじさん2人が手を繋いで歩いていた。
それを見て大樹が
「やば!流石にやばい」
って呟いてたなぁ。大樹には1ミリも悪気無いんだろうけど、和人実は傷付いてたんじゃないかな…
そう思うと心がギュッとなる。
それに私、凄くいじっちゃってたよ…
2人が余りにも仲良しだから。
「あんたら付き合っとるやろ笑笑」
って冷やかしてしまってた…
自分の無責任な発言で、和人を苦しめてたかもしれないと思うと、どっと後悔の念が押し寄せてくる。
片想いで辛い思いをしてるのは私だけだと思っていたけど、もっと辛い思いをしている人が目の前にいたなんて。
誰も報われない哀しい話。
だけど、自分の気持ちにちゃんと向き合う素敵な和人の事を好きになれて良かった。
君が今後少しでも幸せな未来に進める事を祈ってるよ。
だから、私は和人にこう言った。
「応援する。」
「空を見上げて心に浮かんだこと」
大人になるにつれて、自分の本心が見えなくなってきた。
就活の面接で述べた志望動機。
職場の友達との薄っぺらい会話。
上司に対するお世辞。
べらべらと思ってもない事を流暢に話す自分が怖い。
いつか全部嘘で固められた自分が出来上がるんじゃないかと漠然な不安に襲われながら、夜空を見上げた。
私の目には、宝石が散りばめられたかのような満点の星空が飛び込んできた。
「綺麗…」
つい、1人で呟いてしまった。
自分の本当の言葉を久しぶりに聞けた気がした。
「終わりにしよう」
この言葉を聞くと、別れる間際の2人が頭に浮かぶ。
終わりにするのを前提に付き合ってる人や結婚する人なんていないはずなのに。
でもその一方で、幸せは永遠には続かないのも真理なのかもしれない。
終わりがあるもの、限りがあるものだからこそ人はその時間を大切に出来るのだろうか。
儚い。