これまでずっと人に頼られてきた。
辛いことがあるから聞いて欲しいと言われたら、
何時間でも付き合った。
誰もやりたがらない役職も私が引き受けた。
困ってそうな人がいたら「どうした?」って条件反射のように声をかけて、助けてきた。
「頼りになるわー!」
って色んな人に言われて、悪い気はしなかった。
だけど、ある日気づいた。
私が辛い時に、この人たちはそばにいてくれなかった。
「あんたなら大丈夫やって!」
その一言を残して足早に彼らは去って行ったんだ。
私ってバカみたいだ。
結局、都合のいいように使われとるだけ。
一度気づくと、全ての人間関係が薄っぺらいものにに感じられて仕方ない。
気づかなければよかった。
一生バカなお人好しのままで生きたかった。
「ずっと好きです。付き合ってください。」
あーあ、ついに送ってしまったよ。
LINEで告白なんてダサいか。日和ってるか。
直接言うのが正解だよね。
けど、そんな事できない。
これでもめちゃくちゃ勇気を振り絞ってる。
打ってる指は震えてるよ。
でも多分ダメだろうなって思いつつ微かに期待してしまう自分がいる。
夜になって返信が来た。
心臓が跳ね上がる。トーク画面を開くまでに何回も深呼吸した。
「気持ちはありがとう。けどごめんなさい。」
あ…、終わった。
全身の力が抜ける。涙がぼろぼろ落ちる。
私の4年半にも渡る片思いはここで幕を下ろした。
たった一往復の会話で終わった。
中学一年生からずっと好きやったんよ?
休み時間は騒いでるけど授業は真剣に聞いてる君も、
めんどくさいー!って言いながらも文化祭の準備をひとりで最後までやってる君も、
絵がめちゃくちゃ独創的な君も、
クラスで1人でいる子にさりげなく声をかける君も、
「頑張ってね。」じゃなくて「頑張っとると思うから無理せずにね。」っていう言葉を選べる君も、
テストの点数を本気で競争してくれる君も、
隣の席で目が合うとふと笑ってくれた君も、
眼鏡をふいに取った君も、
全部全部大好きでした。
こんなに呆気ないんやね。
願わくばこれからも隣にいさせて欲しかった。
でもね、自分の気持ち最後に言えて良かったよ。
4年半、私の日常に彩りを添えてくれてありがとう。
さよなら、私の長い長い初恋。
目が覚めると、体が縮んでしまっていた!
なんて刺激的な展開は私には訪れない。
全力で私を引き止めるベッドからなんとか脱出して、
大きなあくびをしながら歯を磨く。
ふと時計を見ると、タイムリープしたんか?
ってくらいに針が進んでいて、
慌てて食パンを野菜ジュースで胃に流し込む。
ただ、これだけ。
だけど、結構幸せかも。
…今日の夜ごはんは、炊き込みご飯にしようかな。
そしたら、帰りにスーパー寄らなくちゃ。
なんて考えながら、駅までの道を急ぐ。
なんだか今日は風が気持ちいい。
私の当たり前は誰かの当たり前ではない。
朝起きた瞬間に甘い菓子パンを胃に入れて1日のスイッチを入れるのも、
焼肉屋で肉より締めアイスを楽しみにしてるのも、
「暇」という予定を予めカレンダーに書いているのも、
多分私だけの当たり前。笑
「人はみんな違うから面白いんだ。」
ってことがみんなにとっての当たり前であってほしいな
出張で知らない街に来た。
初日の仕事は無事終わり、宿に向かう。
住宅街を歩いていると、ぽつぽつと灯りが点き始めた。
どこからか聞こえる子供たちのはしゃぎ声。
散歩に連れて行けと叫ぶ犬の声。
部屋から漏れ出るテレビの音。
知らない街だけど、
そこにはどこか懐かしくて暖かい日常があった。
そして、
どこからか風に乗っておでんの香りがやってきた。
「あー。母さんのおでん、久しぶりに食べたいな。」
そう思いながら、悴む手でコンビニの扉を開く。
とりあえず今日の夜はコンビニおでんで
乾杯するとしようか。