「バタン…」
その音で、彼の機嫌が悪い事がわかる。
また、やっちゃった…。
出がけにだけはケンカしたくなかった。
けれどもう、これが日常
そばにいて欲しかっただけなんだけどな…。
私は大きくなったお腹をさする。
大丈夫…明日の朝には帰ってくるのだから。
また、明日には会えるのだから…。
「あーヤバいヤバい!遅刻ぅー」
玄関へ向かう娘を慌てて追いかける。
「いってらっしゃい」
「はいはいーいってきまぁす!」
ヤバい~絶対遅刻ぅ
…お母さん「いってきます」しないとめっちゃ怒るんだょね~マジ急いでんだけどぉっ!
どうせまた夕方には帰るんだからぁ~いちいち面倒くさい別にいいじゃん!
…気をつけていってらっしゃい。
あなたはちゃんと帰ってきてね……
「パタン…」
【また明日】
王様はわかっていた。
賢い者にしか見えない服なんてない。
あるわけがない!
まず、この洋服作ったって嘘つき達
処刑リスト入り!
「まぁ、素敵な服ですわ!」
「王様、早くお召かえくださいな」
コイツら…処刑!
どいつもこいつも
賢いフリしやがって
しかし、ホントに着たふりすんの?
これ…パンイチよ…
本物の家臣を探すためにはいたしかたあるまい。
「王様バンザーイ!」
「素晴らしい服だ」
「キラキラ輝いてるぞ」
「とてもシックで素敵」
「いゃあゴージャスだなぁ」etc……
なんとまぁ!
民衆までも賢いふりをしよる
えぇい!
みんな処刑!
「王様…裸んぼ?」
ピンボーン♪真の賢者見っけ!
ってえぇっ?
「なんて事をいうんだ!愚か者め」
「この愚か者を捕らえろ!」
あわわ…なんという事だ…
……こうして王様は
いつまでもパンイチで過ごす羽目になりましたとさ
めでたしめでたし
ちょっとナナメなアンデルセン童話
教訓…どんなに正しい事でも
1対10なら負けてしまうという理不尽。
多数派が正義となる不思議
正義とは不透明なモノですね…
【透明】
「ピコン♪」
通知音と共にポップアップされたスマホの広告
何なに?【理想の相手ツクール】?
マッチングアプリか何かか…
指先が動く
27歳=彼女いない歴
自分でいうのもなんだがかなりモテる
老若男女問わず…人気者のようだ
なのに…
「理想ねぇ…」
「お前は理想が高すぎるんだょ」
結婚が決まった友人に言われたっけ…
まずは自分のプロフィールか…
かなり細かい
次は相手について…と
登録に小一時間、自分の理想を詰め込んだ
【……アナタニピッタリノオアイテハ…】
思わず画面を覗き込む…とその瞬間
俺はスマホをソファへ投げた
…【アナタノリソウ】
ブラックアウトした画面に写った自分の顔
【理想のあなた】
死ぬばいいと思ってた…
居なくなるじゃなくて
死ねばと…
大恋愛だと思っていたのは私だけだった
結婚しても
子供ができても……
あの人は変わらなかった
愛が、憎しみに変わった
死んじゃえばいいのに…って
ホントに死ぬとは……ね(笑)
今
めっちゃ幸せだょ
ゴメン
死んでくれて
ありがとう
【突然の別れ】
不謹慎ですみません
こんな気持ちを
抱いてはいけないのは
わかっているのです。
けれども…
あの人に育てていただいている間に
芽生えてしまった感情…
感謝でもなく、尊敬でも、憧れでもない。
慈しみのような…そして少しの痛み
やっぱり、これは恋というものなのでしょうか?
あっ!
あの人が帰ってきた!
ガチャッ
「ただいま!アレクサ♪」
【恋物語】