おきつねちゃん

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2/2/2024, 10:52:29 AM

テーマ「勿忘草」

いま思えば、あの時もっと自分がちゃんと気持ちを伝えていれば何かしらは変わっていたんじゃないかと思うときがある。

それは社会に出てからもそうで、あまり連絡を取り合わなくなった友人や、会社の仕事関係。様々なところでそう考えるときがある。

それは恋愛だって例外じゃない。

出会いがあれば、別れもあるのは必然的で、当時の自分は我儘で身勝手だったと何度後悔したことだろう。

「あのね…あんまり連絡も取れないんじゃ、付き合ってる意味ないなって思って」

涙を堪えていること、分かっていた。
自分のせいでそんな事を言わせてることにも気付いていた。

「別れたい」

彼女はいつも俺を一番に考えてくれて、好きだと素直な思いを伝えてくれていた。それなのに俺ときたら友達を優先し、彼女のことを疎かにしてしまった。好きなのに、大事なのに、俺は勝手に彼女が離れていかないと思い込んでしまった結果がこんな結末を迎えてしまった。

「…分かった」

ごめん。やり直したい。俺はまだキミの事が好きなんだ。
こんな言葉が喉から出かかっているのにそれを伝えることは出来ず、頷いた俺を見て彼女は涙を一粒零すと小さく笑った。

「あ、見て見て。この花、小さな花なのに可愛いよね」
「そうか?そんなの何処にでも生えてんじゃん?」
「なんか私今花言葉にハマってるんだけどさ、真実の愛とかっていう花言葉らしいんだけどもう一つあって」
「ふぅん?」

にこにこ話す彼女の顔は今でも思い出せる。でも声がどんな風だったのか思い出せない。それが非常に悔しい。

「わたしを忘れないでって意味もあるんだって」

一切興味のなかった花言葉。キミは何気なく言った言葉なんだろうけどさ、数年経って春の季節が訪れると毎年咲くこの花を見れば、必ずキミのことを思い出すよ。

でもキミは、そんな俺のこと忘れてもう新しい道を歩んでいるんだろうな。

2/2/2024, 8:16:06 AM

テーマ『ブランコ』

持ち手の鎖が、音を立てる。
わたしが小さいときはまだこんなに錆びていなかったはずだ。

風が吹き太陽が傾き始めたこの時間は肌寒く、薄着で出てしまったことを後悔した。そうして一人息を吐き、人が少なくなって昼間の景色とはうんと違う景色を見て思い出した。

もう十数年も前の、まだ自分が親に守られていた頃のことを。

まだ遊びたい気持ちを胸に押し込めて、わたしは母の手を握る。ドラマで出てくるような「今日はなんのごはん?」なんて聞きながら、遊んでいた遊具にさよならをし、家路に着くのだ。

あの頃でしか味わえない形容し難い感情がひどく懐かしく、鼻の奥が小さく痛んだ気がする。もう戻れないんだなぁと思うと無性に寂しくも感じた。


「…そろそろ帰るよー!」
「えぇ?もう?」

すべり台で夢中になって遊んでいたわたしの宝物が、口を尖らしてわたしの元へと駆けてくる。その姿がまた、愛らしい。

「また来ようね。パパももうすぐお仕事終わるし」
「うん。あ、今日なんのごはん?お腹空いちゃったよ」

まるで昔の自分を見てるみたいで思わず笑いが込み上げてきた。小さく笑えば、不思議そうに小首を傾げるわたしの宝物が目に映った。

「何がいい?」

錆びた鎖から手を離し、小さな手のひらをきゅっと握る。

えっとね〜!と楽しげに話すこの子を見て思うのだ。
あの頃の母の気持ちってこんな感じだったのかなって。

戻りたくても戻れないもどかしさと、今の幸せが入り交じってわたしはこの子の頭をそっと撫でる。

そうして振り返りゆらゆらと揺れるブランコに、また来るねと告げた。