【やりたいこと】
安楽椅子に身を沈め
枯れ木の手にはパイプが収まる
最初から身体の一部だったかのような
そのパイプから踊る白い煙
やがて老人は語りはじめる
大地の底から響いてくる暖かな声は
しかし何と言っているのか聞き取ることができない
やがて老人の声が寝息に変わりはじめ
白い煙が夢へといざなう
少年の日へ
少年は空をみていた
暗い夜空に浮かぶ白い月
少年は妹に云う
僕はいつか宙へ行く
あの月に立つんだと
そう語る少年の目は満天の星よりも輝いていた
妹の小さく暖かな手を握りながら
少年の夢はきっと叶うと信じていた
やがて老人は目を覚ます
白く濁った目は
それでも輝きはあの日のまま
夢が現実で現実が夢なのか
握ったパイプから白い煙を吐き出しながら
あの日の月を、妹の幼く小さな手を思う
きっと遠からず夢は叶うだろう
そんなことを思いながら老人はまた
夢の中へ
【朝日の温もり】
遠くで誰かの声がする
「明けない夜はないよ」
あれはいつのことなのか
いまだ夢の中、答えは見つからず
揺れるカーテンの向こうにあなたを探す
窓を開けると心地よい風が
昨日までの鬱屈とした気分を吹き払う
わたしは珈琲を入れながら
明け方の夢、声の主を探す
顔のない声が懐かしさとともに
珈琲の薫りに溶けていく
朝だけはしあわせ
テーブルの食卓
目玉焼きにバタートースト
トマトジュースにヨーグルト
窓から射し込むは暖かな光
わたしはトーストをかじりながら思う
「明けない夜はないよ」
あの声の主も
ここにいればもっと
もっと良かったのになぁ
【岐路】
アフリカのルーシーの時代から
人類は北へ北へと歩みを進めていた
火を使うようになり
マンモスを追いかけて
やがて小麦の奴隷となり土地に縛り付けられて
それでもなお北へ進む者たち
鉄を手にいれ火薬を発明し
やがてそれらは戦いの手段と変わっていった
人類はどれだけの選択を続けてきたのだろう
交易を始め、より多くを得るために
世界を均一化しようとした
それがグローバル
人の歴史は欲の歴史
膨大な時間のなか
たくさんの物を手にいれ
そして捨ててきた
動物たちが環境にあわせて進化するなか
人間は自分達にあわせて環境をねじ伏せた
そして時間がわたしを追い越して現代
恐らく今最大の岐路にある人類
リスクに目をつぶり便利で快適な生活を捨てず
このまま進むのか
或いは自然と調和する方法を模索するのか
後者は難しい道になるだろう
惜しむらくはこの岐路に気付いている
人間があまりにも少ないことだ
恐らく人は滅ぶだろう
ルーシー
あなたはどんな夢をみていたの?
アフリカの原始の森で
あなたが思い描いた未来は、しあわせは
どんな形だったのか教えて欲しい
追記
Beatlesの Lucy in the Sky with Diamonds
この曲はアフリカのルーシーが発見された記念に作られたって勘違いしてたけどこの詩を作るに当たって改めて調べたら実際は逆だった
ルーシーが見つかったときにこの曲がかかっていたから彼女はルーシーとなったんだね。
ちなみにこの曲のタイトルの名詞の頭文字を繋げるとアレになる。ミュージシャンの大好物のアレに…
それはそうとリリカルで素朴である意味イノセントなこの曲のイメージはアフリカのルーシーにぴったりで、彼女のことを考えるときはいつもこの曲が流れてきます。
【世界の終わりに君と】
世界が広がってやがて収束していく
そんな興奮にため息をついて
読んでいた本を閉じる
物語の終わりはいつも
happy ever after
これもひとつの世界の終わり
最初のページをめくったときから
あなたはいつも私を勇気づけてくれた
すべてが終った今
本の中のあなたに話しかける
おつかれさま
素敵な冒険をありがとう
この本を読んでいるあなたに話しかける
わたしの物語はどうですか?
あなたがしてくれたように
わたしも誰かを励ませていますか?
わたしの物語のすべてが終り
最後のページに至ったときに
読んでくれたあなたから
おつかれさまと
言ってもらえる物語になっているといいな
大抵のことはなんとかなるし
何とかならないことは足掻いたってしょうがない
あまり自分のことに真剣になりすぎない方がいいよ
いま生きている人は百年前には存在してないし
百年後には消えている
コロナだって戦争だって百年後には
歴史の教科書の一ページに書かれるだけの出来事
そう考えれば目の前の最悪なことなんて
そんなにたいした事じゃない
そう思わないとやってらんないし
どうせ人間なんてくだらない存在なんだから
楽しくやろうぜ、兄弟
【最悪】
Fluctuat nec mergitur
(たゆたえども沈まず)
荒波や暴風に襲われたら帆をたたんで
じっと嵐が過ぎるのを待とう
沈みさえしなければ
また前に進める
ボロボロに傷ついた船だって
いつか港にたどり着く
だからこんな穏やかな日は少しだけ帆を張って
風の吹くままに進んでいこう
沈みさえしなければ
きっと