『あなたとわたし』
「あなたと私、とってもお似合いじゃない?」
ついこないだ、そんなことを言われた。
僕はその言葉に対し考え込んだ。
そして言った
「お似合いだとしても、行かなきゃ。それに僕は女の子だから」
それな対し彼女は少し寂しそうな顔をし「そう」と呟いた。
僕は旅を続けるうちに、自分の存在に疑問を抱いていた。あなたとわたし、そのあなたに世界の誰が入ってもわたしが優先されることは無いって。でも、殆どの人がそう思うのだろうか。
そんなことを考えても意味なんてないんだけど、どうせわからないのだから。
『一筋の光』
あの日、僕に一筋の光が見えた。
君が手を差し伸べて、一緒に行こう、と言っただけ。
ただ、それだけで僕にとって一筋の光となったのだ。
でも、君はもういない。
なら、僕がまた誰かに、そしてその誰かがまたさらに誰かにそうやって光を与え続けられたら。
なんて考えていた。実際はそんなことはない。
どうせ3人目くらいで忘れてしまうんだ。
でも、それでいいじゃないか。
僕が僕であるために、私が君であるために誰かに光を与え続けるのだ。
『鏡の中の自分』
鏡の中の自分がふと語りかけてきた気がした。
なんでって、言われると思う。
でも、語りかけてくる気がした。
僕は心の中で返した。
どうして?
でも答えは返ってこない。
当たり前か。
僕は、鏡から離れてふと思った。
入れ替わりたい
鏡の中の自分が、よく言うセリフだな。
『眠りにつく前に』
「眠りにつく前に、始めましょう、とあるお伽噺を」
そう、彼女は呟いた。
お伽噺と言っても沢山のものが多すぎてその情報だけじゃ何もわからない。
赤ずきんだとか、人魚姫だとかそんなのを思い浮かべた僕の横でまだ彼女は呟く。
「誰も知らない、知る術のないとあるとある少女のお伽噺」
お伽噺なんて聞くのも読むのも、子供の頃以来だ。
「昔、とある国にとても可憐な王女様が住んでいました。ですが王女様は外には出してもらえず、齢16歳に至るまで、塔の中で過ごしていました。
ある日、王女様はたった1人の使用人に言いました。
「どうして私は外に出してもらえないの?」
使用人はそれに対して言いました。
「外に出ると危ないからですよ」
ですが、王女様は納得がいきません。
「でも、私は外の世界を見てみたいわ」
ですが、使用人は微妙な顔をし
「外の世界を見てどうするのですか?」と王女様に問いました。すると、王女様は黙り込んでしまいました。そんな日々が続き王女様は段々と、外に出たいと言う気持ちが収まらなくなっていってしまいました。そして、我慢ができなくなった王女様は使用人を殺し外に出ていきました。
ですが王女様は外に出てすぐに盗賊に襲われ、身包みを剥がされ、奴隷として売られてしまいました。王女様は、奴隷として昼はこき使われ夜は主人の相手をしついに死んでしまいました。そして最後、殺した使用人が現れ、言いました。
「だから言ったじゃないですか、危ないって」
そうして、王女様は永遠の眠りにつきました。
お終い」
僕は話を聞いた後に口を開いた。
「酷い話だね」
「えぇ、すごく酷く残酷な話よ。それで、貴方はどう感じる?」
「使用人は、王女様を永遠の眠りについても愛していたのか、それとも永遠の眠りにつくと同時に、憎しみの牢獄に囚われたのかどっちなんだろう」
僕が抱いた感情は、ただそれだけだった。
『永遠に』
永遠に生きていたい。
最初にそう思ったのは初めてだった。不老不死は辛い、むしろ産まれてから10数年で死にたいと説くものもいる。
でも僕には到底理解できないことだ。
寧ろそう思う人がいるなら、今の僕に寿命を分けて欲しいまである。
今まではそんなこと考えたことはなかった。
確かに長生きはしたいけど、代わりに誰かが死ぬんなら、そんなものはいらない。でも今は誰かが死んでもいいから自分は生きたいと考えてしまう。
もし永遠の命があるのなら、今僕に与えてほしい。
まあ、もう手遅れなんだけどね。
僕にはこれから永遠の死の牢獄が待っているから、永遠に生きることはできない。