生き物は消費していくことが生業だから、その手の内側にはまだないものくらいしか残っていない。形のないものを証明するために形のあるものをあつめている。そのほうがずっとずっと形がないですね!みんなが権利という名前の紙切れを集めている。紙も金も等しく口にもできない無機物に過ぎない。
『助けて!勝利の女神とか!』
何と戦って誰を負かすの!そうしていつになったら春が来るの。あたたかい季節は人数制限付きだから誰かを蹴落として生きている。それがこの世界の全て!誰もが正義になりたいって?誰かを幸せにしてみたいって。人類にはまだ早すぎたみたいですね?
わたしたち何も持っていないから何も失ってなんかいないよ!命だって証明のひとつも持っていないしそれがなんの権利の代わりになるんだろう?悲しくても嬉しくても涙を流す生き物だから、一人で!一人で。
『生まれてきてよかったです!』って!
お葬式のあとに少し胸がうきうきする感じがする人は、物が壊れるのが嫌いじゃあない人の気持ちをわかってあげられるかもしれないって思う。じぶんを知るひとを失っていく気楽さ。
大切にしているものなんて、みんなすぐになくなってしまうのに、不思議だ。目が覚めたら、驚いたことに、かれかのじょたちは生きていた。真っ白な絨毯みたいな雲のうえに、その糸くずみたいな出っ張りがいくらか現れたあと、たぶん人はいなくなる。宇宙がまばたきをする。目を閉じて、開いたら、地球はもうなかった。
欲しいものとかはあるの?色と過去のない世界がいつか絵本の中から得た知識で色付き出すことを笑って受け入れるの?かつて続いた戦争は今では遠くのことになって、あの日見た平和が広がるいつかの夢の中に生きていくだけ。
誰かの払った対価を食い潰してどこまでも歩けるし、高い高いところに立って底なんて見ないまま広い地面を進む凱旋。希望の中に竦んでこの先は一体どこにあって、知識や技術はコウノトリでもないんじゃないかって疑問には蓋をして。
配られた上振れのカードを手放しても誰も救えやしないよ。元から持たなかったならこんな立場じゃなかった。何もいらないよ。
めでたしめでたし!で終わる物語を信用できずに生きることは、どれだけつまらないんだろうって思いながらもそのまま過ごしている。ハッピーエンドの向こう側に幸や不幸があるのなら、物語に『Ⅱ』を求められる悲劇を思ってしまう。
あのとき彼らが頑張って掴み取った平穏は、幾数十年で当たり前のものになってまた振り出しに戻っていく。輪廻転生。ものごとが遍く流転するような不変の悲しみの中で、いつか手を取り合う輪を抜けて一人になれる日を案外救いと呼ぶのかもね。
終わらないものを求めている。ないからいいんだと思うよ。できるだけ真っ白なものを求めながらべたべた握ってるみたいに。
もっと知りたいな。楽しいこと全部を頭の中に詰め込んで、一人きり空の下の世界をみんなまとめて救ってしまいたいな。人の智を超えた存在になって誰かの涙を消せたら生きやすい世界になるんだろうな。
誰もに素敵な明日が待ってるわけじゃないからいらないことを覚えてしまう。悲鳴は鼓膜から離れないし。何十回の幸せに迎えられた道でも誰かへの餞一つで悲惨な場所に思えてしまうから。
明るい今を知りたいな。優しい言葉をすべての人が受け取っていないなら幸せに価値はあるんだろうか?君の明るい今を知りたいな。幸せなことを語られても未来を憂いてしまうからこそまだ幼いんだろう、と、思った。