どれだけ教科書のページをめっくても
私の人生に起こったことは
書かれていないことだった
誰も教えてくれなかった
「助けて」
ノートに書くだけじゃダメだということ
言葉にして
一番言いにくいことを叫んだら
私の新章が始まった
#81「ページをめくる」
汗だくで上った
あの急な階段も
人工芝で並んで
寝転がったことも
下北沢の古着屋さんで
売ってた変なTシャツも
夜更かしして見た
B級ホラー映画も
間違えて大量注文した素麺を
食べ続けることになった日々も
忘れ物にしようと思ってたけど
全部、探し出して拾い集めて
上書きするから、安心してね
私、あなたのことだけは
忘れるわ
#80「夏の忘れ物を探しに」
今日は、まだ何もやってなかった。
午後6時までのログインボーナスに、
運良く間に合った5時。
ログインして、
ミッションを一通りこなしても、
集中力は欠けている。
「お疲れ様です。
今日はお休みします。」
メッセージを送信
今日は、で良かったのかな?
週末だとは感じていたけれど、
8月も今日で終わりということに、
送ってから気付いた。
何か始まった気がしていたけど、
何にも始まってもいないのに、
止まったまま。
しんどいな
夕凪が終わって、
風が少し吹いたのを感じて、
虫の音が聞こえ出す。
「多分、明日も休みます。」
このまま風が運んでくれれば、
あなたの受信箱に届きますか?
#79「8月31日、午後5時」
不確かな未来に
足りないもの
両手で掬い
不完全なままでも
助け合って
凛として
不自然と言われても
他勢に耳を貸さず
両片想いでいましょうね
#78「ふたり」
「生まれてきてくれてありがとう」って言う
偽物の母親が作る料理は
いつも一手間かかって美味しくて
「がんばってえらいね」って
上手くいかない時も
ぎゅっと抱きしめてくれる
テストの点数が良かった時は
頭を撫でてくれながら
「お勉強が好きなところはお父さんに似たのね」って微笑む
偽物の兄はとても頼りがいがあって
普段は無口でも、困った時は助けてくれる
夜、帰りが遅くなると
ふいに仏頂面で現れて
「心配かけるな」って
ぎゅっと少し痛いくらいで握りながら
手を引いて一緒に帰ってくれる
本物の父は、感情の起伏が激しくて
アルコール依存症で
本物の母と本物の兄には手を挙げなかった
私にだけ、その拳は振り下ろされた
本物の父はとても弱い人だった
本物の父はどうしようもないクズだと思ってた
なのに、私の中には
どうしようもなく
本物の父がいる
偽物の母親と偽物の兄とともに
本物の父だけが私に最後に一言
「生きろ」と言った
#77「心の中の風景は」