雨上がりの土手に
猫じゃらしが揺れる
ぺトリコール
「彼氏にしてあげよっか?」
魚が跳ねる
「え?!」
二度と言わない
猫じゃらしを1本摘み取って
渡す
「何それ?」
「猫じゃらし」
思わず手に取った彼の姿が
おもしろくて笑った
「夏、終わんないね」
「早く寒くなるといいな」
冬の匂いがしたら
手を繋いで
今度はちゃんと
「好き。」って言おう
#76「夏草」
このところ塞ぎ込んでるキミの
知らないところでさ
キセキが起きたんだ
朝、使ったはずの化粧水のボトル
無くして困ってた
部屋中探しに探しまくって
買えば済む話じゃないんだ
特別な思いがあった訳じゃないのに
ただ、毎日ここにあるって当たり前が
無くなったことが
悔しくて
置きそうな場所全部
置かないであろう所も全部
隅々探し回って
朝、キミに川辺の画像を送っておいた
川で犬とカヌーしてる人の画像
返信が無くても待っていたよ
そこからの記憶は曖昧だ
化粧水のボトルの在処が
思い出せない
夕方、激しい雷雨
キミが怖い思いをしていないだろうか
メッセージは送らず祈ってたんだ
雨上がりに
キミからの通知が届く
メッセージは無い
鉄橋にかかる虹の画像
言葉はなくても歓喜して
ふと見れば
机の端っこに
化粧水のボトル
転がってた
これって、キセキだろ?
キミが起こしたキセキだろ?
#75「ここにある」
いい加減にしてよ
ピンヒールのパンプスを
ぶん投げて
素足で感じるアスファルト
あなたに届かない
この気持ち全部
走り出して
茨の道を踏み締めても
痛みは私に届かない
ピンヒールのパンプスごと
預けた身体も
揺れる心もぶん投げて
あなたに届けたい
今の気持ち全部
受け止めて
いい加減にしてよ
転がり続けた
この恋は、もうおしまい
変哲でもいいから
愛してよ
#74「素足のままで」
片足漬けた
泥濘に
もう片足を漬ければ
身体ごと沈んで
泥だらけの私を救ってくれるかな?
救ってくれるかな?
泥濘に指先だけになった私は
きっと誰よりも美しい
美しい
地面で踏ん張って
着飾っていた頃よりも
誰かにちやほやされたり
嘘つきで
立つのがやっとだった
呼吸すらめんどくさくて
地面なんて
もういらなくなった
片足漬けた
泥濘に
両足漬けて
沈む
沈む
沈む
沈む
地面と別れた私は
泥まみれの世界で一番美しい
#73「もう一歩だけ、」
築36年の2DK
駅から徒歩20分
二人で初めて住んだアパートは
取り壊されてガレージになった
週一でまとめ買いしたスーパーは
名前を変えてセルフレジ
「もっと広い部屋が欲しいね」
「猫が飼えるところがいいね」
二人でいれば大丈夫
抱きしめあって
キスをした
永遠に思ってた
あの頃の夢は
排水溝に流れて
二人は別々の街に住む
#72「見知らぬ街」