小学三年生の時私は思いたって、学区外に友達も誘わず、たった一人で、出かけたことがある。そこには、私が見たこともない学校、見たこともない家々、見たこともない公園、見たこともない人々が居た。皆一様に、俯き気味に歩き、似たようなベージュの上っ張りを着ていた。

あの人はとても良い香りがした、そばによると、甘く、切なくなるような、胸が締め付けられるような香りだった。それが、金木犀だと解るのは大人になってからだった

そんな笑わないでくれよ、俺が消えるからってさ、何ヶ月も居座って悪かったな。
頭をあげた先の山に紅が差し赤とんぼが飛び交い、空気が冷んやりした。

泣きたいからだよ、泣いたら駄目なら泣くて行動も概念も無いよね？必要だから泣くんだよ、そんなことも分からないのか?

額の汗を手首で拭い、敦史はズボンのポケットからコンパスを取り出した