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5/6/2024, 12:05:19 PM

『明日世界が終わるなら』

ニュースキャスターが告げた世界の余命宣告。
家族やご近所が阿鼻叫喚の中で、私は母さんが作ったおにぎりをもぐもぐしながら頭の中でこう思っていた。

「やば、バイト遅刻しそう。」


荷物を担いで逃げようとするご近所さんの波を縫って歩きながらスマホに繋いだイヤホンから聞こえる音楽を口ずさむ。

友人が好きだと言った流行りの恋愛映画の主題歌。
三角関係から始まる高校生の色恋で、女の子の争奪戦で、ライバルが出て…最後に結ばれたのはどっちだったかな?

涙ながらに熱く語る友人が羨ましい位に響く物は何も無く、思ったのは「キャラメルポップコーン美味しかったな」だった。そんな私に根気強く付き合う友人はある意味物好きで変わり者か。

考え事をしながら歩いてたらバイト先にたどり着いた。が…
古ぼけたスーパーの中身はすっからかん。
床に散らばり散乱する商品の数に片付けが大変だなと考えながらバックヤードに行くと、ソファに座りながらタバコを吸う店長がこっちを見て「おつかれさん」と言ってテレビに視線を戻した。

「……お疲れ様です、店長。フロアがやばい事になってますけど、どーします?」
「んー?そーだな、とりあえず掃除するか。後、昨日言ってたイベントの奴なんだがーーー」

ロッカーに入れていたエプロンをつけてから長い髪の毛を1つに結び、昨日していた次のイベントの話をされる。春の特集だとか何だかで飾り付けをするのだ。
イベントについて考えるのは物凄く苦手だけどやはり楽しそうに見てくれる常連客のおじぃちゃんやおばぁちゃん達の顔を見るとやりがいを感じるのだ。

店長との話が終わり箒とちりとりを手にフロアへ行くと、常連のおばぁちゃんが驚いた顔で店内を見回していた。

「あらあら。今日は何も無いのねぇ?」
「そーなんですよ、すみません。」

いつも通りの会話をしながら杖を着いて帰り道を歩くおばぁちゃんを見送り店内へ戻ろうとした時、いつの間にこちらに居たのか店長が気だるそうに立っていた。

「そーいえばよ、世界終わるって言ってるのに何でお前ここにいんの?」
「え?だって、シフト入ってるから?あ、もしかして今日休みでしたっけ?」
「……いや、別にいいんだけどな。」

ボリボリ頭を搔く店長を不思議そうに首を傾げて見上げると、少し呆れ顔をしながらその大きな手でガシガシと頭を撫で「程々にしろよ」と言って中へと戻って行った。

撫でられた所をそっと触れる。上気する頬。
何故か友人と見た映画のワンシーンを思い出した。

『もしも、明日世界が終わるなら私は貴方と一緒に居たいよ!』

赤く染った頬に口をハクハクと動かした。
私はもしかしたら、店長の事…………っ!!


何でそんなに優しい顔をするんです、店長!?







5/6/2024, 3:59:31 AM

『君と出逢って』

家が隣同士
部屋が窓越し同士
同じ保育園
同じ小学校
同じ中学校
同じ高校
同じ大学

社会人になり会う回数は減ってしまった。
それぞれの道を歩む中、たまたま君を見つけた。

喜びと悲しみと、それから愛しさ。

「やぁ、久しぶり。元気にしてた?」

その言葉しか出なかった。

あの日の事を僕は未だに忘れることが出来ない。


ある程度の時間が経過して僕は立ち上がり「またね」を告げる。数歩歩いてから足を止めて振り返る。

「僕は君が大好きだったよ。いや、これからもずっと。」


彼女の墓石の前で僕は精一杯の笑顔を作る。
来年、再来年、死ぬまでずっと僕は君に会いに来る。
僕の人生を変えてくれた君を、僕は愛し続ける。

さようなら何て言わない。
だって、僕達は永遠を誓ったのだから。


大学を出て社会人になり、お互いの時間を過ごす中たまたま僕は立ち寄った公園で彼女を見つけた。
何年ぶりかに会った彼女は昔と変わらず花が咲く笑顔で僕に言ったんだ。『何だ何だ、そのやつれ切った顔は。私が特別に話聞こうか?』と。
僕は少し笑いながら「やぁ、久しぶり。君こそ元気だったかい?」と答えた。
それから再び始まった僕らの時間。
流れる様に僕は彼女にプロポーズをし、同じ名字になった事に酷く浮かれていた。
それから1年。僕達の結婚生活は終わりを告げた。
彼女に癌が見つかった。厄介な癌だった。
彼女自身さえも気が付かないほどの、それ。
余命宣告された彼女だけど、1度弱音は吐かずに闘病生活を繰り返し、でも……そのまま帰らない人になってしまった。
最期、僕に言ったあの言葉。

『私以外を愛したらダメ。好きになるのはいいけどね。泣き虫で寂しがりの君を愛せるのは私だけなんだから』


僕は思わず笑ってしまった。
良く考えれば彼女が居ないとダメダメな僕が今まで頑張れたのは彼女の笑顔のおかげだった。

『もういいのかい?』
「うん、もういいよ。」
『……偉かったね、頑張ったね。』
「そうだね、僕は頑張ったんだ。君がいなくて寂しかったけど、頑張ったよ。」

『お疲れ様、私の可愛い旦那様。』
「ありがとう、僕の可愛い奥様。」

僕は静かに目を閉じた。
自分の年齢が3桁行った時の事だった。