『明日世界が終わるなら』
ニュースキャスターが告げた世界の余命宣告。
家族やご近所が阿鼻叫喚の中で、私は母さんが作ったおにぎりをもぐもぐしながら頭の中でこう思っていた。
「やば、バイト遅刻しそう。」
荷物を担いで逃げようとするご近所さんの波を縫って歩きながらスマホに繋いだイヤホンから聞こえる音楽を口ずさむ。
友人が好きだと言った流行りの恋愛映画の主題歌。
三角関係から始まる高校生の色恋で、女の子の争奪戦で、ライバルが出て…最後に結ばれたのはどっちだったかな?
涙ながらに熱く語る友人が羨ましい位に響く物は何も無く、思ったのは「キャラメルポップコーン美味しかったな」だった。そんな私に根気強く付き合う友人はある意味物好きで変わり者か。
考え事をしながら歩いてたらバイト先にたどり着いた。が…
古ぼけたスーパーの中身はすっからかん。
床に散らばり散乱する商品の数に片付けが大変だなと考えながらバックヤードに行くと、ソファに座りながらタバコを吸う店長がこっちを見て「おつかれさん」と言ってテレビに視線を戻した。
「……お疲れ様です、店長。フロアがやばい事になってますけど、どーします?」
「んー?そーだな、とりあえず掃除するか。後、昨日言ってたイベントの奴なんだがーーー」
ロッカーに入れていたエプロンをつけてから長い髪の毛を1つに結び、昨日していた次のイベントの話をされる。春の特集だとか何だかで飾り付けをするのだ。
イベントについて考えるのは物凄く苦手だけどやはり楽しそうに見てくれる常連客のおじぃちゃんやおばぁちゃん達の顔を見るとやりがいを感じるのだ。
店長との話が終わり箒とちりとりを手にフロアへ行くと、常連のおばぁちゃんが驚いた顔で店内を見回していた。
「あらあら。今日は何も無いのねぇ?」
「そーなんですよ、すみません。」
いつも通りの会話をしながら杖を着いて帰り道を歩くおばぁちゃんを見送り店内へ戻ろうとした時、いつの間にこちらに居たのか店長が気だるそうに立っていた。
「そーいえばよ、世界終わるって言ってるのに何でお前ここにいんの?」
「え?だって、シフト入ってるから?あ、もしかして今日休みでしたっけ?」
「……いや、別にいいんだけどな。」
ボリボリ頭を搔く店長を不思議そうに首を傾げて見上げると、少し呆れ顔をしながらその大きな手でガシガシと頭を撫で「程々にしろよ」と言って中へと戻って行った。
撫でられた所をそっと触れる。上気する頬。
何故か友人と見た映画のワンシーンを思い出した。
『もしも、明日世界が終わるなら私は貴方と一緒に居たいよ!』
赤く染った頬に口をハクハクと動かした。
私はもしかしたら、店長の事…………っ!!
何でそんなに優しい顔をするんです、店長!?
5/6/2024, 12:05:19 PM